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演出家 小川絵梨子が瞬間をつなぎ、物語に命吹き込む「外の風に触れ、全力で扉押した」


拍手が響く客席から楽屋に戻った小川絵梨子(39)は、早速、手元のメモに目をやりながらスタッフと言葉を交わしていた。4月12日夜、新国立劇場の舞台「1984」の初日。その表情に開幕を迎えた安堵感は薄く、張り詰めた空気が漂う。今回、挑むのは、ジョージ・オーウェルの同名小説を原作に、行動や言葉、思想すら統制される社会を描く英国発の問題作。俳優の演技、監視社会を象徴するスクリーンの映像やセットの動き、どれか一つずれても、物語の流れは途切れてしまう。公演中も調整と確認が続く。


「リアルで緻密」と評される小川の演出を支えるのは、俳優たちとの根気強いやりとりだ。立ち稽古の前、時間をかけて脚本を読み合わせ、シーンや役について「青写真」を共有する。劇中の状況や人間関係をリアルに感じられるよう、ゲームで遊ぶことも。今回は、俳優陣を弁護人、検察官、陪審員に分け、裁判形式で「『1984』の世界は幸福か」を議論した。「この世界を弁護されたら、自分がどんな意見になるかも知りたくて――。役者さんのアイデアで理解が深まることはいっぱいある」


小川が、ニューヨークで学んだフリーの専業演出家として、日本で本格的に活動を始めたのは8年前。自ら劇団を主宰し脚本も書く、または老舗劇団で経験を積む――そんな演出家の多い日本では、異色の経歴と言える。だが、翻訳も手がける英語の力への評価も高く、今や依頼は切れ目なく続く。一緒に仕事をした俳優の中には、厚い信頼を寄せる人も少なくないという。俳優の那須佐代子(52)は「役者に忍耐強く寄り添い、良い所を引き出そうとするのが絵梨子さんの演出」。


9月、歴代最年少で新国立劇場演劇部門の6代目芸術監督に就く。その道のりは、よりどころのない不安との闘いだった。



(次ページへ続く)

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