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Breakthrough 突破する力 米国立保健研究所主任研究員 小林久隆が挑む「がん細胞を消す」夢の治療法



 日本の組織より世界で勝負

Photo: Lanham Yuko

壁に突き当たったのは、3年間の留学を終えて京都大の助手になったころだ。当時、助手の年俸は500万円ほど。日中に臨床や学生の指導を終えた後、生活費のために別の病院で1年間アルバイトしたが、研究が進まず焦りが募った。「研究はスポーツと似ている。世界のトップ近くにいても1年休んだらカムバックは難しい」。留学中に知り合ったNIHの研究者に連絡を取り、再び渡米を決めた。「日本の組織の中で頑張るより、世界の中で実力で勝負したかった」。待遇に大差はなく、日本での昇進もあきらめることになるが、研究に専念できるのが魅力的だった。


NIHの研究職は一定期間で成果が上がらなければ職場を追われることも珍しくない。当初は日中に所属する研究室の実験を手伝い、深夜に自分の研究に取り組んだ。努力を続ける小林に周囲が配慮してくれるようになり、環境が整った。同僚の一人で現在は部門長のピーター・チョイキは「彼が自由に研究できる環境を作ったことが私のキャリアで最高の決断」と話す。


実現めざし奔走


小林は講演で、あるイラストを見せて聴衆から笑いをとる。法衣をまとった「神様」と、ヤリを構えた「悪魔」。神様役は、iPS細胞でノーベル医学生理学賞を受賞した京都大教授の山中伸弥。悪魔役が小林だ。「山中先生は神様のような人。あらゆる臓器を再生できる細胞を作った。我々は悪魔。どんな細胞でも壊してみせる」


研究の実用化には資金と社会の理解が欠かせない。笑いを誘うイラストには、知名度の高い山中を引き合いに出して、自分の研究をアピールする狙いもある。「理論的には、8~9割のがんは治せるようになるはず。あとは科学以外の部分でどれだけ頑張れるか」。臨床試験は今後、日米に加え、シンガポールでも計画が進む。小林は3カ国を往復する日々を送る。「真理を突き詰めるのが研究の王道。でも、人の役に立つことを優先する科学があってもいい。私は医者なので患者さんを治したい」(文中敬称略)



(次ページへ続く)

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