松島と2人で始めた団体も、今やスタッフは十数人。毎年、全員が参加しての合宿を行う。一昨年、中期経営計画をつくるため、みなで話し合っている時のことだ。スタッフから次第に本音が出はじめた。「代表は前向きすぎて弱音を言えない」「リーダーが弱みを見せないのは、部下が信頼されていないからだと思ってしまう」。最後にはスタッフも小沼も泣きながらの議論となった。
確かに自分は、後ろ向きなことを言われると「そんなことない、こう考えようよ」と、相手の話を遮っていた……。
「ショックでした。強みだと思っていたところに疑問を突きつけられた。リーダーは背中を見せて引っ張っていくものだと思っていたので」
以来、相手の話を丁寧に聞くようになった。いまでもトップの自分がどのくらい本音を吐露すべきか揺れる。だが、以前なら口にすることはなかった弱みや課題も表に出せるようになった。
企業にとっては利益、運動部にとっては勝利というわかりやすい目標がある。だがNPOは「志」や「思い」を大切にするぶん、運営は難しいし、正解も簡単ではない。「みんなで悩みながらやっていこうと思えるようになりました」
毎年、1月にその年の目標を手帳に書きつける。今年は「攻めの中期計画、新規事業をつくる」と書いた。若手・中堅対象の留職に加えて、管理職に的を絞ったプログラムや、アジアの社会起業家と交流し、支援する事業も始めた。やりたいことは膨らむばかり。滑っても、転んでも、熱量はどんどん増していく。
(文中敬称略)
編集部が挙げた7種類の力に自ら「成長力」を加えて「5」をつけた。一番自信があるのもこれだという。「自分はこだわりが強いながらも素直。この人、と思った人の助言をベースに自分や団体ができることを増やそうという姿勢を大切にしています」。弱いのは「集中力」。「長時間のデスクワークは苦手。いろいろな人に会って話をしながら物事を進めたり、刺激を受けたりする方が好き」。体育会出身なのに体力が「4」なのは、「30代半ばになり、体力自慢で突っ走るのが危険に思えてきたので自戒を込めて」。
家族…妻と1男1女。結婚式の時、ガラにもないグレーのタキシード姿で登場したら、会場から大爆笑が起きた。牧師さんが「こんなことは初めてですが、新郎が友人たちから愛されているということだと思います」。
昨年、長男が生まれた時は、1カ月の育休を取って長女の世話をした。妻もずっと仕事を続けているので、いまは父親が週に数回、長女の世話をしに通ってきてくれる。
スポーツマン…根っからのスポーツマン体質。マッキンゼー時代はマラソンとトライアスロンをしていた。起業してから久々に挑戦したら、両方とも途中棄権する羽目に。それからは、週に1、2回はジムに通う。
映画好き…学生時代は年に100本見ていた。今は忙しくて年に20〜30本に減ってしまったが、映画館で見るという行為を大事にしている。「全部忘れて、最高にリフレッシュする瞬間です」
文・秋山訓子
1968年生まれ。政治部、経済部、GLOBE編集部などを経て編集委員。
写真・仙波理
1965年生まれ。朝日新聞東京本社カメラマン。アフガン、イラク戦争などを取材
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