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Breakthrough 突破する力 [No.183]栗林隆/Kuribayashi Takashi





震災が分岐点

石膏型から作品を取り出す。「最も心おどる瞬間」だ。全幅の信頼を置く助手のアガ(26)=右=は「タカシが考えることは人と違う。一緒にいるとつねに新しい経験ができる」
photo: Semba Satoru

11年、ネパールの標高4000メートルの村へのヤタイトリップを終えて帰国した翌日、東日本大震災が起きる。それが分岐点となった。


中でも、福島第1原発事故に栗林は衝撃を受けた。目に見えない放射能によって避難区域の線が引かれる。海や土や空気はどこまでが「安全」なのか? 関心は「見えない境界」に向かった。


危険区域の海岸で波乗りする映像を人工の竜巻に映す「Tornado」、原爆の開発許可を求めるアインシュタインの手紙をガラス文字で表したシャンデリアの四方を、除染土を詰める袋の連なりで覆う「Vortex」など、作品は強いメッセージ性を帯びていく。


4年前、インドネシアに拠点を移した。急速に「事故前」の社会に戻ろうとする流れに、「中にいたら何も見えなくなる」と感じたからだ。今も年に数回福島を訪ね、地元の人々と交流を続ける一方、戊辰戦争を見直し、歴史の事実を模索するプロジェクトを志津野と進める。「私たちはどこへ向かうのか。未来を示し、導くのがアーティストだ」


現代美術に詳しい森美術館館長の南條史生(67)は言う。「誰もが無理だと思うことをやる。話が大きすぎてスポンサーもつきにくい。でもあれだけスケールの大きな仕事をしていればチャンスは必ず来る。その時、何をして応えるかがアーティストとしての勝負だ」


(文中敬称略)



直感を大事にするアーティストらしい結果となった。5をつけた「力」の中でも、「集中力」は「間違いなく自信がある。これが唯一の強みだと思う」。「独創性・ひらめき」は4。意外ですね、と言うと「5だったら、もうちょっと楽に仕事ができると思う。自信はあるけれど、毎回の生みの苦しみを思うとね」と正直だ。


「協調性」は3。「それなりにあるんですよ。最近は人の言うことを素直に聞くようになったし。ただ、ものすごい人見知りなんです。実は『ひとり好き』で、気がつくとずっと一人でいます」



MEMO


ミニクーパー…無類の車好き。中でもミニクーパーは特別だ。ドイツ時代に「乗車用」「パーツ取得用」「メカをいじる用」に3台同時に所有したことも。パーツを探して欧州を旅したこともある。


「大金は要らない」…現代美術家を応援する「ワンピース倶楽部」を主宰する石鍋博子(60)は長年の友人だ。初対面の時、鉄道ICカードに入った数千円が「全財産」だという栗林に驚いた。後に「大金は要らないから、世界中の美術館から『栗林なら何をしてもいい』と言われる作家になりたい」とも聞いた。「アーティストには2種類いる。アート作品を作る人、生き方がアーティストの人。彼は間違いなく後者ね」


ウェブサイト…インドネシア移住を前に作った。サイトを見た海外の美術館から依頼が舞い込むことも。

(webサイトはこちらから)


文と写真


文・後藤絵里

1969年生まれ。GLOBE副編集長。十和田市現代美術館での「境界」体験が取材のきっかけ


写真・仙波理

1965年生まれ。朝日新聞東京本社カメラマン。アフガン、イラク戦争などを取材



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