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[No.179]糸数剛一/Itokazu Gouichi


ベトナムから日本に留学し、沖縄のファミリーマートでアルバイトをする男子学生が出会ったのは、少し年上の沖縄の女性。いつしか二人は恋に落ち……。


「遠く離れた同じ空の下で」(仮)という甘酸っぱいタイトルの2時間ドラマの撮影が、10月から沖縄とベトナムで始まる。来年1月下旬〜2月、夜8時からのゴールデンタイムをねらい、旧正月を家族で祝うベトナムの人々に向けて国営放送で放映される。


各場面を彩る沖縄の美しい自然や観光地の数々。ああ、行ってみたいな。ベトナムの人にそう思わせたら勝ちだ。実はこのドラマ、沖縄の企業がお金を出し合って作っている。出資金集めに奔走しているのが、糸数剛一(57)だ。


「気候も文化もいいかげんさも、沖縄はアジアの人が溶け込むのに絶好の場所。めちゃめちゃ人を呼び込んで、沖縄が大発展する可能性にかけたい」


いま、沖縄はアジアからの観光ブームにわいている。2015年度の外国人観光客は約167万人。前年度から70%近く増え、過去最多だった。このチャンスを、地元は生かし切れていない。


那覇市の中心にある県内唯一のデパート「リウボウ」もそうだ。1948年に琉球貿易商事として創業。外国から買い付けた魅力的な商品で知られ、「舶来品のリウボウ」といわれた。


それも今は昔。3年前、糸数がグループを統括するホールディングスの社長になったときには、東京ではやったモノが少量ずつ並ぶ、どこにでもある地方の百貨店になっていた。


「答えは海外にある」。糸数は今年7月に台湾の百貨店と提携。ポイントカードを共通化し、台湾からの客も割引などのサービスを受けられるようにする。台湾側の社長にはこうクギをさされた。「紅芋タルトやエイサー隊は知ってます。NEW OKINAWA(新しい沖縄)を持ってきて」。そこでPORTERブランドで人気の吉田カバンと組み、沖縄の紅型や首里織をあしらったバッグを持ち込んだ。「海外からも買いにくるような良品を見つける『目利き』を育てないと」。目線の先にあるのはベトナム、韓国、香港など、格安航空で気軽に来られる国々の人たちだ。


セブン進出をはばむ男

ファミマ米国現地法人の会議後に仲間と(本人提供)

糸数はグループ傘下のコンビニ、沖縄ファミリーマートの出身だ。沖縄はコンビニ最大手セブン−イレブンの全国唯一の空白地帯。あの手この手で沖縄ファミマの業績を伸ばし、「セブンの沖縄進出をはばむ男」と呼ばれる。


そんな糸数に、デパートは深刻な「業界病」に陥っているように見えた。アパレルに依存した商品展開。「最近のお客は安いものしか買わない」という言い訳。きわめつきは、お客の大半は女性なのに、男性が中心の経営陣だ。


糸数は今年、同社初の女性取締役をはじめ、女性社員数人を昇格させデパート業務の決裁権を持たせた。営業企画課の新任課長、新垣睦子は「意見が通るようになって女性の同僚たちがやる気になった」という。


ふだん、会長室のドアは開けたまま。「社員が意見を言いに入って来てくれるといいなと思って」。若い頃、営業の部下から総スカンをくらい、管理部に異動したことがある。糸数が自分でできることを部下に押しつけていると思われたのだ。仲間の声をきちんと聞きたい。開けっ放しのドアは苦い経験から得た教訓だ。


コンビニ業界に入ったのはなりゆきだった。大学を卒業後、沖縄銀行に勤めた。海外への憧れが募り、「昔の沖縄みたい」なフィリピンと行き来するように。現地の女性と結婚し、子どもにも恵まれた。


だが、乗り合い自動車の事業などに出資してももうからない。帰国しては戸別訪問で教材を売るセールスマンをした。家の雰囲気や相手の表情、話し方から瞬時に対応を考える。「お子さんは分数からやったほうがいいねー」。同じ家に何度も通い、子どもに勉強を教えた。教材はよく売れた。


人の心をつかむ早さは、その後も周囲の人間を驚かせた。のちに仕事を共にする沖縄ファミマ広報・マーケティング室長の比嘉智(50)もその一人。入社面接を受けて帰宅すると、面接官だった糸数が家に上がり込み、妻とおしゃべりしていた。「近所だからさーって。面接結果も出てないのに。外にいた番犬まで手なずけられてましたよ」




(次ページへ続く)

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