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[No.125]松田悠介/Matsuda Yusuke 新任教師の研修を笑顔で見守る。「頼もしい仲間が集まり手応えを感じる」





窓の外では、薄紅色の梅の花が満開だった。3月3日、茨城県つくば市の教員研修センター。松田悠介(30)は、今春に小中学校に赴任する教師のタマゴたち15人を見まわして、力を込めた。


「皆さんは単に良い先生になるために、ここにいるのではない。日本の教育を抜本的に変えてほしいとの期待を背負っている」。松田が代表理事を務め、教師の育成・派遣をするNPO「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」の2度目の春季合宿がスタートした。


松田は自らの生い立ちやTFJを立ち上げた経緯を、1時間半近くにわたり訴えた。「思いを共有してほしい。それが、信頼関係を築く第一歩になる」。最後にそう呼びかけると、一瞬、言葉につまった。「今まで語らなかったことまで話したので、泣きそうになりました」。胸には、少年時代のつらいいじめ体験が去来していた。


TFJのモデルになっているのは、教育格差の解消を目指し貧困地域の学校に教師を派遣している米国のNPO「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」だ。新卒者らを非常勤講師として2年間採用し、教師のなり手が少ない学校に派遣する。米国では、TFAの学生の人気は高く、2010年には人文系の就職人気ランキングでトップになった。


教員制度が違う日本では、松田らは赴任先が決まった教師を支援する。期間は2年間。赴任前に春季合宿で指導案づくりや教育実習を行い、その後も月1回程度の研修を開く。2013年度に初めて、11人の新任教師を6府県の公立小中学校などに送り込んだ。


松田は、米国留学中にTFAを知り、日本に導入したいと考えた。彼が大学時代にボランティアで勉強を教えた中学生は、全員がひとり親の家庭で、日本の教育格差を実感していた。子どもに向き合えない教師、横並び意識にとらわれた教育現場にも一石を投じたかった。「僕は恩師に救われた。ひとりでも向き合う大人がいれば、子どもの人生は変わる」



壮絶ないじめ体験


子どものころは小柄で気が弱く、いじめられていた。小学6年生の授業中、クラスメートに突然、身体的特徴をあげつらうあだ名を一斉に連呼され、その場で泣き崩れた。都内の私立の中高一貫校に進んでも、休み時間に殴る蹴るの暴行を受けた。後遺症で左目の視力が低下したが、誰にも相談できなかった。


そんなとき、所属する陸上部の顧問だった体育教師・松野稔が「なぜ、いじめられるか考えたことがあるか」と問いかけてきた。出した結論は「身長が低い」「筋肉がない」「言い返さない」の三つ。松野は毎朝、始業前にトレーニングルームを開け、体力づくりに付き合ってくれた。中学3年間で身長が30センチ伸び、いじめもなくなった。この体験を通し、将来教師になりたいと思うようになった。


高校3年間の担任だった坂上慶三(57)は、松田を「思い込んだら一筋の運動バカ。成績は劣等生だった」と評する。それでも、集中力は負けなかった。猛勉強で私大の体育学科に進学。4年後、体育教師になり母校に戻った。


だが、松田は挫折する。着任早々、簡単な英語で体育の授業を進める「スポーツ・イングリッシュ」を考案。「よーい、ドン」を「レディー・ゴー」に言い換えるなど、英会話に親しんでもらおうと考えた。だが、学校側から「待った」がかかった。生徒の人気は上々で、中止の理由は説明されなかった。「出た杭が打たれた」と感じた。膨らむ挫折感と違和感。2年で体育教師を辞め、08年夏、持ち前の集中力でハーバード大の教育大学院に合格。学校経営のノウハウを学び、「一から学校を作りたかった」。



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