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[No97]山本耕史/Yamamoto Koji

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稽古場をゆっくりと歩み、立ち止まった。「あと一歩、踏み出すべきか?」。本番の舞台幅20メートル、奥行き16メートル。その上でのわずか一歩がどんな差を生み出すのか。山本耕史(36)は感覚を研ぎ澄ます。稽古場の真ん中にたたずみ、体の向きをわずかにずらし、顔の角度を微妙に変えてみる。


「稽古場に立てば、はっきりと見えてくるんです。これを表現するのに、この一歩は違うとか、顔はあと2センチ左だなと」


1月半ば、都内のスタジオでは朝から稽古が続いていた。今月、東京と大阪で公演するミュージカル「ロックオペラ モーツァルト」。欧州で150万人を動員した作品で、山本と中川晃教(30)がモーツァルトとサリエリを交互に演じる。


ブロードウェーの演出家フィリップ・マッキンリーの指示で、山本は瞬時に二つの役を行き来してみせる。台本を確認しながら演じる役者もいるなか、山本は休憩までの2時間、台本を手にすることもなかった。せりふはよどみなく、ときに共演者の分もカバーした。


山本は、こうした立ち稽古の前にせりふを覚えることを自分に課している。今回の台本は137ページ。「2時間くらいでだいたい覚えた。早いでしょ?」と笑った。



アイドルではなかった

コメディーやミュージカル、時代劇まで幅広く演じ、どんな役にもすっと入っていく。人間の矛盾した感情や二面性をていねいに表現し、役の大小にかかわらず印象に残る場面を残してきた。


昨年のNHK時代劇「薄桜記」では、片腕の剣豪・丹下典膳を演じた。制作統括の佐野元彦(53)は、山本に主演してもらうのが前提だったと話す。


「レベルの高い殺陣ができる俳優は、あの世代に一握り。それを片腕でやるとなると、山本さんしか考えられなかった」。右手で刀を振りながら、前から後ろへ移動していくカメラの動きを感じ取り、隠した左腕が映らないよう、前後にずらしてみせたという。「身体的な力と感情表現が両立できる数少ない俳優。枷(かせ)をかけるほど力を出す」


生後まもなくから母親に連れられ、二つ上の兄とモデルをしていた。物心ついた2歳のころの最初の記憶は撮影現場。小学2年生のときには、初舞台で汀夏子らベテランと共演した。学校を早退して舞台に向かう忙しい小学生だった。


「知らないうちに、母が応募していてね。人見知りだったし、仕事が決まると嫌で嫌で。でも、やってしまえばすごく楽しいことも、わかっていました」


36年間、芸能界ですごすうち、この世界と、そこに身を置く自分とを、冷静に俯瞰(ふかん)する視線をもった。


「僕はアイドルでもなかったし、ガーンとブレイクしたこともないんです」。ふと、そう話したことがある。10代のころは、同世代の俳優たちが学園モノのドラマに次々と出ていた。「旬の彼らを見ながら、うらやましいと思う半面、俺はこうじゃないんだろうな、とも思ってた」


俳優業とは何なのか。山本はつねに自分に問いかけてきたように見える。


「この世界は、スポーツのように何秒で走る、といった基準がない。だから、ここまでやれるのがプロだという境界線は、自分の中にもっておきたい」


プロであるがゆえに、裏の努力を見せようとはしない。そして、おかしいと思うことは許せない。ある演出家が稽古場の雰囲気を締めようと、「おまえら、いい加減にしろ!」と怒鳴ってみせたことがある。「おまえら、なんて言われる筋合いはない」と言い返した。「二度と仕事ができなくなった人もいました」


芸能事務所からの誘いを断り、ずっとひとりでやってきたのも、「俳優業とは何か」への、山本なりの答えだった。


大きな事務所に入れば、周りと足並みをそろえねばならないこともある。だが、俳優とは、本来ひとりで歩むものではないか。「足並みはそろえるものではなく、ひとりで歩く人たちが、ふと横を見たら何人かいた、というものだと思うから」



やまもと・こうじ

1976年、東京都生まれ。0歳でモデルを始める。小学2年生で初舞台を踏み、93年のフジテレビ系ドラマ「ひとつ屋根の下」の末っ子役で知られるように。2004年、NHK大河ドラマ「新選組!」の土方歳三役で人気に。06年には続編「新選組!! 土方歳三 最期の一日」で主演したほか、昨年の大河ドラマ「平清盛」では藤原頼長を演じた。「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」「ドリアン・グレイの肖像」など舞台を中心に、「華麗なる一族」「恋におちたら」「Mother」などテレビドラマの出演も多い。昨年主演したミュージカル「tick,tick...BOOM!」では演出・振り付け・翻訳も手がけた。「ロックオペラ モーツァルト」は2月11日から東京、22日から大阪で公演する。



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