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[No78] 牧野正幸/Makino Masayuki デスクに長居はしない。考え抜く時、隣にある窓のないラウンジにこもる。

3月下旬の夜、東京・赤坂のワークスアプリケーションズ本社。リクルートスーツを着た約300人の学生たちが、講師役の社員を見つめていた。笑顔の人、疲れた様子の人。7日間のインターンシップの最終日、成績が発表されていくと、学生たちの顔にはさまざまな表情が浮かぶ。


その一人、広沢篤紀(24)は、体を震わせて泣いていた。成績が悪かったのか? 「いえ、僕はA評価ですが、入社パスをもらえなかった仲間がいて」。つい数日前に出会ったばかりの仲間のために悔し泣きしていたのだ。


問題解決能力をもつ人材を発掘しようと、ワークスがこのインターンシップを始めたのは2002年。「理想の時計をつくれ」といった課題を学生に与え、ゼロから自分で考えてもらう。成績上位の学生には、卒業後の1年間、好きな時に入社できるパスが与えられる。


日本でフェイスブックやアップルが出てこないのは、優秀な人材が集まらないからだ――。ワークス最高経営責任者(CEO)の牧野正幸(49)は、そう考えている。「ゼロから新しい価値をつくり上げるような、めちゃくちゃ優秀な人材が活躍できる会社にしたい」


米国の調査会社が45カ国で実施する「働きがいのある会社」ランキングの日本版で、ワークスは昨年と今年、グーグルに次いで2位に選ばれた。企業向けの人事・会計パッケージソフトの開発・販売という裏方的な会社でありながら、日本マイクロソフトや三井住友銀行などの有名企業よりも高い評価を得ている。


ポンと3000万円

牧野がソフトウエアに初めて触れたのは、大手建設会社に就職した時だ。年功序列の職場。成果も上げず、世渡りがうまいだけで出世していく人もいた。本当の仕事ぶりが評価されない環境に耐えられず、1年半で退社した。


システム開発会社に転職し、外資系企業に出向した。システムコンサルタントとして働くうちに、多くの日本企業の抱える問題点が見えてきた。「大企業のITコストが、海外の3、4倍と高い」


その一つが、人事や会計などの基幹業務ソフトだった。海外企業は「パッケージソフト」という安い既製品を使うのが主流だったが、日本企業の多くは自社専用のソフトを発注していた。スーツでいえば、既製服とオーダーメードの違いだ。


牧野は、国産のパッケージソフトをつくろうと、7年間いた会社を94年にやめた。その2年後、2人のパートナーとワークスを設立する。そのころ100カ所ほどベンチャー投資家を回ったが、反応はゼロ。牧野は、ネット上でフォーラムを開いていた堀義人(50)=現・グロービス経営大学院学長=にいきなりメールを出した。


堀は、情熱的に話す30歳そこそこの人物に3000万円の投資を決めた。牧野が強い自信をもっていると感じたからだ。「営業は外部に任せず、ひたすら電話をかけていた。爆発的なパワーを感じた」。資金は次第に集まり始める。


パッケージソフトの開発には、1000万行を超える長大なプログラミングがともなう。想像力も必要だ。牧野は「優秀な人材」にこだわった。


だが、「人材」は、さっぱり集まらない。オフィスは東京・三田のマンションの一室で、社員は10人ほど。無理もなかった。


「未経験者を集めては」。最高執行責任者(COO)の阿部孝司(50)は提案した。経験者を募るのが一般的なIT業界では、あまり前例のないやり方だ。


折しも、アジア通貨危機が起き、日本でも山一証券が破綻(はたん)。大企業に入れば生涯安泰という高度成長期モデルが崩れつつあった。「一流企業の2、3年目で、悶々(もんもん)としている優秀なヤツがいるはずだ」。半年の議論の末、牧野は阿部の提案を受け入れる。


ITエンジニア未経験の若手を雇い、前職と同じ給料を支払って半年間の研修で鍛え上げる。「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てます」。そんな広告を転職誌に出すと、大手金融機関などから300人が応募してきた。


やがて、応募者4000人以上になった。創業6年後、国内の人事・給与のパッケージソフト市場のシェアで首位に。2001年には株式上場を果たした。


まきの・まさゆき

1963年、兵庫県出身。大手建設会社でソフトウエアを担当。システム開発会社に転職後、2年間ほど、米国やアイルランドのベンチャー企業とともに仕事をした。1994年にシステムコンサルタントとして独立。96年、大企業向けパッケージソフトを手がけるワークスアプリケーションズを設立。2001年から同社代表取締役最高経営責任者(CEO)。



(次ページへ続く)

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