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Break-through 突破する力 中村鉄哉

下戸が酒を商売にして、何が悪いか。
焼酎が「高級酒」で何が悪いか。
東京・銀座の雑踏を、163センチの体がせかせかと進む。一升瓶が3本、すっぽり収まる黒いリュックがギシギシと音を立てる。背中にはいつも、反骨心がある。

中村鉄哉が社長を務める「ルネサンス・プロジェクト」は従業員8人。本社は福岡・天神のビルの一室にある。三井物産を46歳で退社して創業し、3年で年商15億円。九州の蔵元14社と提携してつくり上げた個性豊かな65銘柄の酒は、全国系の卸業者を通さない独自ルートで首都圏、そして中国やフランスなど海外の百貨店や酒店、レストランやバーに並ぶ。

前首相の麻生太郎が通うと話題になった、東京の高級ホテルの会員制バー。長い中廊下を進んだ、案内図にはない一室で、黒服のバーテンが陶製の瓶をグラスの氷の上に傾ける。パチパチと音が立ち、香りが漂う。銀色のラベルには「阿吽の人」。ボトル1本1万9000円でも、キープする人は多い。小売店での定価7000円も、焼酎としては非常に高い。
この酒に、中村の原点がある。

宮崎空港から山あいの道を1時間あまり。糸杉林を分け入るように車で進むと、れんが造りの建物が見えてくる。100年以上の歴史を持つ蔵元、「櫻の郷酒造」の貯蔵庫だ。
10年前の夏。三井物産九州支社に東京から転勤して間もなく、焼酎をつくる時に出る「焼酎かす」処理プラント事業の営業を任され、蔵元を回っていた。
焼酎業界は逆風のまっただ中にいた。世界貿易機関(WTO)に「同じ蒸留酒なのにウイスキーより税率が低すぎる」と勧告された。増税とともに、低価格競争を強いられた。経営難に陥る蔵元も多く、中村の営業に反応はなかった。

「ここもダメだろうな」。噴き出した汗がワイシャツにじっとりと張り付く。
その時、透明な液体で満たされたコップを手渡された。「焼酎かすはどうでもよかけん、焼酎を売ってくれんね」
少しだけ、口に含んだ。まろやかな液体がのどを通ると、体内が熱くなり、光が走った。
サッカーや柔道で鍛えた体つきとは裏腹に、酒があまり飲めない体質だ。学生時代に東南アジアを放浪してB型肝炎のキャリアになって以来、プンとするにおいに吐き気を催す。軽口をたたき合う酒の席も得意ではない。大学では内村鑑三の政治思想を学び、「正義とはなにか」と考え続けた。

入社してすぐにバブル絶頂期が来た。一気飲みが流行していた。客や上司を盛り上げる同期を眺めて「商社マンたるもの、これぐらいしなければ」と劣等感を持つ一方で、「仲間内で飲んでなにになる」と自己肯定もした。焼酎は、そんな酒席の「くさくてまずい安酒」の象徴だった。

(次ページへ続く)

自己評価シート

 

 

 

 

 

自分にどんな「力」が備わっているのか。何が強みなのか。「集中力」「独創性」など編集部が提示した10種類の力に順番をつけてもらう予定だったが、次の取材時、中村が「宿題やってきたよ」と開いた手帳には、まったく別の「力」がずらりと書き込まれていた。


 

 

 

 

中村鉄哉(なかむら・てつや)ルネサンス・プロジェクト社長

1959年、山口県防府市まれ。
84年、三井物産に入社。金属、不動産開発などの部門を経て98年、九州支社に異動。焼酎事業を始める。06年に退社、ルネサンス・プロジェクトを立ち上げた。商社マン時代には専業主婦だった妻は今、常務。3人の息子のうち2人は巣立ち、ラブラドルレトリバーの「春」が「まな娘」という。

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