TOPへ
RSS

Break-through 突破する力 藤倉大

転機は03年、26歳の夏に訪れた。スイス・ルツェルン。現代音楽の大家ピエール・ブーレーズが直接指導する若手作曲家を選ぶオーディションに、98年の作品と、その4年後に書いた作品の2点を提出した。
面接でブーレーズは言った。「最初の作品はアンプロフェッショナル(未熟)だが、もう一つはいい。4年でこれだけ変われるなら、今からどれだけ変わるかに興味がある」
藤倉が当時から自らに課していたのは、テーマでも作曲技法でも、過去に使った技法をあえて使わず、新しい領域に取り組むことだ。意識するのは、作曲家ストラビンスキーの言葉だ。「行動にしばりをかけた方が、私にとっての自由はより大きく、意味あるものになる」
ブーレーズに見いだされ、活動の場は、英国から欧州大陸、世界へと広がった。作曲だけで生活できるようになったのはこの年からだ。来年初めには、ブーレーズ85歳を祝う作品を米シカゴ交響楽団が初演する。

東京駅を訪ねた数日後、藤倉の作品がNHK交響楽団の演奏会で取り上げられた。
尾高賞受賞作品「シークレット・フォレスト(secret forest for ensemble)」。壇上に並んだ9人の弦楽合奏と、客席の四隅や中央に配置された木管、金管奏者8人がともに演奏する。映画の効果音に使う筒状のレインスティックの雨音と響き合い、森の中にいるような幻想的な空間がホールに広がった。
この曲で、藤倉はある実験をした。木管、金管奏者には、複数の楽譜があり、奏者がどれを演奏しても弦楽奏者との「計算されたハーモニー」が成り立つ。「未来の」東京駅ホームのように――。
藤倉は、作曲という作業を黒澤明の映画になぞらえる。エキストラ一人ひとりの動きまで完全に計算された「隠し砦の三悪人」のワンシーンのように、どこを切り取っても完璧な映像。「即興のように自由自在なのに、よく分析してみると、かちっと計算されて作られているというのが理想。ジョン・ケージの音楽のような偶然性には頼りたくない」
音楽も、楽譜という台本に従って、演奏者と演奏空間を完全にコントロールできる世界なのだ。その気持ちは、作曲家を目指した少年の頃から変わっていない。
「人生って、コントロールできないじゃないですか。でも、音楽の中では全部コントロールできる。作曲でなら、パラダイスを作れる。そこには住めないけれど」

(文中敬称略)

自己評価シート

 

作曲は短期集中型。4月に初演された読売日響の委嘱作品「アトム」は、最初の1カ月で3分の長さしか書けなかったが、次の3週間で予定の10分より長い14分の曲に。結局、締め切り3週間前に書き終えた。

独創性と音楽の「進歩」にこだわる。「嫌いな作曲家はショスタコーヴィチ。政治的な理由があったにしても、前に進んでいない。彼がいてもいなくても、今の音楽は変わっていない」

企画・交渉力は関西仕込みか。英留学先の寄宿学校では校長と直談判して1年飛び級に。音大の学費は、誘いのあった2校を競わせ、学費無料で志望校に入った。卒業制作の自作オペラを学外で公演したうえで、採点担当の教員にもチケットを買わせた。

運は○とした。あこがれのブーレーズに会うきっかけとなったのは、英国でのプロジェクトで知り合った作曲家兼指揮者エトヴェッシュの紹介。
藤倉の楽譜とCDを聴き、本人に会う前から、欧州の音楽関係者に推薦した。

協調性を△としたのは、作曲の時間を確保するため、パーティーや結婚式に出ないと決めているから。本当に必要なら、個人的に会う。洋服もユニクロでまとめ買い。
「ネクタイみたいに着ける意味のないものは着けない」

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ