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Break-through 突破する力 片山寿伸

日本のりんご作りをとりまく危機は恒常的だ。国内市場は飽和状態で、消費は低迷している。
大手スーパーが提示する買い取り価格は、県の最低賃金並みの時給で片山が試算した生産原価とほぼ同額。社長になった今も月給は25万円だ。社員11人の給料などを支払った後の最終的な会社の利益は年400万円ほどにしかならない。
日本産は、価格競争では外国産に太刀打ちできない。世界的に定評がある品質でも、後発の中国の追い上げを受ける。後継者もなかなかみつからない。

現状を打開しなければ、日本の、弘前のりんご産業が潰えてしまう。リスクを恐れずに挑戦する背景に、そんな思いがある。
「厳しい状況で『やってもしょうがない』と考える関係者が多い中で、片山さんには『おれがやらなきゃ』という情熱を感じる」。中国市場の新規開拓に向け、どのようなルートでりんごを運べば効率的かを調べる産学連携の実証実験に、片山と共に参加したNECの担当者は、そう話す。

大学時代。ドイツの哲学者ハイデガーを卒業論文のテーマに決めた。だがどうしても書けず、7年で中退した。
帰ったのは、子どものころからいつもそばにあった、家のりんご畑だった。
「晴耕雨読を目指していたけど、晴耕雨耕になってしまった」。りんごづくりにどっぷりつかっていった。
片山はそう話しながら、借金して買い取った畑に立つ樹齢80年のりんごの木をなでた。
倒れそうになったときは、畑の元の主が接ぎ木して支えてきた木だ。主は昨年、作業中にはしごから転落し亡くなった。だれかが継がなければ、木は切られる運命だった。

片山りんごの畑はここ数年で、倍近くの21haになった。県の平均的な販売農家は1ha。廃業する農家が相次ぐ中、「りんごの木のある風景」がなくならないようにと、できるだけ農地を買ったり借りたりした。

片山の話を、ともに櫂をこぐ相棒がうなずきながら聞いていた。大学時代からの親友、山野豊だ。5年前、勤務先の大手メーカーが吸収合併されたのを機に退社。
海外進出を本格化しようと考えていた片山が声をかけた。

05年、ドイツで開かれた欧州最大級の果物・野菜の国際見本市に、2人で初めて乗り込んだ。3回目の07年、ようやく取引が成立した。相手はスイスの高級百貨店、グローブスだ。
山野は、パリッとしたスーツ姿の4人組が目に入ったとたん、「資金があり取引を真剣に考えてくれそうだ」と「元営業マンの勘」を走らせた。数十m先から動きを見逃さずにブースに招き入れ、津軽の酒をふるまった。彼らがグローブスの担当者だった。
「欧州では珍しい大きさと高品質」(同店)に興味を持たれ、今グローブスでは、現地産の5~10倍の価格ながらクリスマスの贈答品として人気だ。

欧州だけではない。中国などは高所得者層、タヒチはリゾート客と、狙いを絞って売り込んでいる。そうして片山と山野が販路を広げた各国・地域への輸出量は年間数tから数十t。ただ、日本からのりんご輸出全体の9割を占める台湾向けの2万t超に比べ微々たるものだ。将来の販路拡大の保証はまだない。

だが、2人の思いは重なる。「日本では、『費用対効果』といった言葉が、行動を起こさない免罪符に使われる。変化が加速している今、リスクをとらないことが最大のリスクだ。我が社は弱小ゆえ、6対4で見込みがあれば、勝負に出る」
「当たって砕けろ」の姿勢は、社是にもなっている。そんな話を聞きながら、記者の頭に歌が流れた。

「もしかしたら今日は何も起こんないかも でも 明日へとパドリング」

「ゆけ 高い デカイ 波に乗れ 怯んでる自分蹴飛ばして」

Mr.Childrenの「PADDLE」だ。片山に聴いてもらった。
「こんなにかっこいいもんじゃない。泥船に乗ってこぎ続けているようなもんです」
荒波の中で、怯むいとまはない。

(文中敬称略)
「PADDLE」:JASRAC 出0906888-901

自己評価シート

 

厳しいりんご業界の中で、だれも手をつけてこなかった販路を拡大していくには、行動力や決断力が重要なのでは、と記者は想像していた。だが、この二つは下位に。
この部分を補っているのは山野のようだ。
自身でトップに挙げたのは「運」。会社設立の元手はたったの500円だったと聞き、驚いた。りんご畑を守り続けるために農業生産法人の設立を夢見ていたものの、資金がなかった1998年、競馬で2000倍の馬券などを当てて設立資金にした。
それ以来、競馬はしていない。
運を支えてきたのが、体力や持続力・忍耐力と、協調性だ。
霜や雹といった自然に振り回されながら、剪定や摘果などの地道な作業を続けてきた。
収穫期にはりんご箱を運び続ける。畑仕事で培った体力や忍耐力は、多くのりんご農家に通じるものだろう。
自ら「潤滑油」と分析する協調性は、生産者や仲卸業者に長く耳を傾けてきて養われた。「無謀なことでも、まずは要望を聞けるかもしれない、と思うところから始まる」と片山。
山野は「ええかっこしい」と毒づきながらも、協調性は片山の最も優れている点だと評価している。

 

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