1. HOME
  2. Learning
  3. 米中戦争の危機描く さて現実は ソウルから

米中戦争の危機描く さて現実は ソウルから

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:

北朝鮮の脅威に緊張の高まる中、国際情勢をモチーフにした小説『米中戦争』の12巻がベストテンにランクインした。作家の金辰明(キム・ジンミョン)は、愛国心を心地よく刺激して定評がある。

世界銀行の調査員キムは、韓国の陸軍士官学校出身のエリート。非凡な推理力で、巨額の資金の動きを追うためウィーンに飛ぶ。捜査の過程で出会ったFBIの要員アイリーンはドイツ系の大富豪の娘。先代からロシアと太いパイプを持っている。彼女はキムに、ロシアがらみの国際的な陰謀を耳打ちする。

キムが心ひかれるのは、青瓦台(韓国大統領官邸)に招かれたドイツ生まれの韓国美人チェ・イジ博士。半島を取り巻く大国の利害とひずみを、数学の方程式で解こうと試みる。チェとキムがコーヒーショップで頭を突き合わせている様子は、まるで健全な中学生のよう。燃える愛国心は、色恋にも勝るのか。

作家は、昨今の国際情勢を特有の奇想天外な想像力で解き、壮大な物語を作り上げる。

支持率の低かったトランプが当選した裏には、財力でアメリカを動かす8人の「聖杯騎士団」の画策があった。ロックフェラーやロスチャイルドなど名門家の代表で構成され、世界の政治経済、軍需産業やマスコミまで支配する秘密組織だ。トランプにパリ協定を離脱させたのも、産油国であるロシアに恩を売るため。彼らの目的はただ一つ、アメリカ経済の復興だ。

日本は米軍にひさしを貸すのみの存在。日本の外交力は、作家の関心の外だ。

キッシンジャーの説く中国との協調路線に同意しないトランプは、中国を最悪の略奪者とののしる。クシュナーはホワイトハウスからロシアに飛び、プーチンに「米中間に紛争が起こったら、中国の肩を持つな」と頼む。

文在寅(ムン・ジェイン)の「戦争不可」発言にいら立つトランプは、叫ぶ。「北の核など初めから関心もない。最終ターゲットは中国だ」。

自国の利益のために米中戦争を仕掛けたいアメリカにとって、北朝鮮の核は千載一遇のチャンス。その導火線を使って、中国に飛び火するよう仕向けるには。戦争のシュミレーションがホワイトハウスで進められている。

一触即発の危機に、青瓦台からロシア、中国、北朝鮮、アメリカへそれぞれ特使が飛ぶ。各国首脳を説得する切り札とはなにか。結末に期待がふくらんだが、「それでいいのか」と鼻白んだ。

さて、現実の世界では新年早々、南北対話が始まった。「事実は小説より奇」と言うが、今年の朝鮮半島をめぐる情勢が気にかかる。

小説部門の集計の上位に、東野圭吾の作品が並んでいる。3位『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、7位『素敵な日本人』、11位『雪煙チェイス』、16位『仮面山荘殺人事件』。今に始まったことではなく、根強い人気だ。20位圏内には、村上春樹、佐藤正午、江国香織の作品もある。日本の小説は、韓国の読者にも身近な存在だ。

逆に韓国作家のラインナップは、昨夏以来ほとんど動きがないのが寂しい。目新しい作品を探して、14位の『娘について』を読んだ。「今日の若き作家」シリーズの中の1冊だ。

主人公は60代半ばの女性。夫に先立たれ、老人ホームで介護士として働いている。30代半ばの娘は、大学に入ると家を出て、今は大学で講師をしている。

ある日、娘が実家に戻ってきた。女性パートナーと一緒だ。大学時代からそれとなく気配は感じていたが、一時の迷いかと思い、娘に問いただしたことはなかった。もう7年も一緒に暮らしているという。「自分の育て方が悪かったのか。それとも勉強させすぎたのが悪かったのか」と、母は混乱する。

母が介護するのは、身寄りのない西洋人のジェーン。かつては福祉の仕事で社会の尊敬を集めたというジェーンだが、今は見舞いに来る者もない。糞尿で汚れた体を洗いながら、床ずれの傷が少しずつ大きくなるのを母は悲しげに眺めている。

痴呆が進んだジェーンは突然、別の施設に移された。娘は同性愛者だと批難され、講師の職を解雇された。大学の前で抗議の座り込みを行い、暴力を振るわれて病院に運ばれた娘。母にとっては理解できないことばかり。しかしそれが、目の前にある現実なのだ。

寡黙だった母は激高する。ベッドに括り付けられ、精神安定剤と睡眠薬でもうろうとしているジェーンを、タクシーで自宅に運び込む。世の理不尽と戦う娘たちと、死にゆくジェーン。4人の女たちが一つ屋根の下で、午後の日差しを浴びながら、甘いクリームたっぷりのケーキを食べる描写に胸が熱くなった。なにも特別なことのない日常。ささいで平凡な瞬間。それを守るために、女たちは戦っている。

それぞれの女たちの迷いや諦めや怒りが、深く胸に響いて余韻を残す。女性作家キム・へジンの衝撃作だ。

韓国のベストセラー

1月第1週 インターネット教保文庫集計(小説)より

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 82년생 김지영

82年生まれのキム・ジヨン』

조남주  チョ・ナムジュ

平凡な日常の中で、少しずつ精神をむしばまれていく女性の姿が共感を集めた。

2 바깥은 여름 

『外は夏』

김애란  キム・エラン

短編集。幼子を失った現実と、昨日と変わりない外の世界とのギャップが痛い。

3 나미야 잡화점의 기적

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)

히가시노 게이고 東野圭吾

おそらく韓国で最も人気の日本作家はこの人だ。読まれ続けている。

4 파리의 아파트

『パリのアパート』

기욤 뮈소 ギヨーム・ミュッソ

韓国で大人気のフランス作家の新作。拉致された息子を探し求める天才画家。

5 미중전쟁1

『 米中戦争1』

김진명  キム・ジンミョン(金辰明)

韓国人以外の読者を不愉快にさせ、韓国人の愛国心を心地よく刺激する作家。

6 미중전쟁2

『米中戦争2』

김진명  キム・ジンミョン(金辰明)

ふくらませた展開に似合わぬ結末に、「これでいいのか」と鼻白んだ。

7 그대 눈동자에 건배

『素敵な日本人』(光文社)

히가시노 게이고 東野圭吾

韓国語のタイトルは、短編の中の一つ『君の瞳に乾杯』となっている。

8 아르테미스

『アルテミス』

앤디 위어(ANDY WEIR) アンディ・ウィアー

映画『オデッセイ』の原作でヒットを飛ばした作家の、新作SFサスペンス。

9 오리진1

『オリジン上』(KADOKAWA予定)

댄 브라운  ダン・ブラウン

全世界で大ヒットした『ダ・ヴィンチ・コード』の作家の最新作。

10 오리진2

『オリジン下』(KADOKAWA予定)

댄 브라운  ダン・ブラウン

「われわれはどこから来てどこへ行くのか」。神、科学、そして未来とは。