RSS

世界の書店から

米中戦争の危機描く

[第220回]戸田郁子 作家・翻訳家・編集者

Photo: Nishida Hiroki


北朝鮮の脅威に緊張の高まる中、国際情勢をモチーフにした小説『米中戦争』の1、2巻がベストテンにランクインした。作家の金辰明(キム・ジンミョン)は、愛国心を心地よく刺激して定評がある。


世界銀行の調査員キムは、韓国の陸軍士官学校出身のエリート。非凡な推理力で、巨額の資金の動きを追うためウィーンに飛ぶ。捜査の過程で出会ったFBIの要員アイリーンはドイツ系の大富豪の娘。先代からロシアと太いパイプを持っている。彼女はキムに、ロシアがらみの国際的な陰謀を耳打ちする。


キムが心ひかれるのは、青瓦台(韓国大統領官邸)に招かれたドイツ生まれの韓国美人チェ・イジ博士。半島を取り巻く大国の利害とひずみを、数学の方程式で解こうと試みる。チェとキムがコーヒーショップで頭を突き合わせている様子は、まるで健全な中学生のよう。燃える愛国心は、色恋にも勝るのか。


作家は、昨今の国際情勢を特有の奇想天外な想像力で解き、壮大な物語を作り上げる。


支持率の低かったトランプが当選した裏には、財力でアメリカを動かす8人の「聖杯騎士団」の画策があった。ロックフェラーやロスチャイルドなど名門家の代表で構成され、世界の政治経済、軍需産業やマスコミまで支配する秘密組織だ。トランプにパリ協定を離脱させたのも、産油国であるロシアに恩を売るため。彼らの目的はただ一つ、アメリカ経済の復興だ。


日本は米軍にひさしを貸すのみの存在。日本の外交力は、作家の関心の外だ。


キッシンジャーの説く中国との協調路線に同意しないトランプは、中国を最悪の略奪者とののしる。クシュナーはホワイトハウスからロシアに飛び、プーチンに「米中間に紛争が起こったら、中国の肩を持つな」と頼む。


文在寅(ムン・ジェイン)の「戦争不可」発言にいら立つトランプは、叫ぶ。「北の核など初めから関心もない。最終ターゲットは中国だ」。


自国の利益のために米中戦争を仕掛けたいアメリカにとって、北朝鮮の核は千載一遇のチャンス。その導火線を使って、中国に飛び火するよう仕向けるには。戦争のシュミレーションがホワイトハウスで進められている。


一触即発の危機に、青瓦台からロシア、中国、北朝鮮、アメリカへそれぞれ特使が飛ぶ。各国首脳を説得する切り札とはなにか。結末に期待がふくらんだが、「それでいいのか」と鼻白んだ。


さて、現実の世界では新年早々、南北対話が始まった。「事実は小説より奇」と言うが、今年の朝鮮半島をめぐる情勢が気にかかる。



(次ページへ続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

[第226回]宮家あゆみ ライター・翻訳者 宗教の檻の中で育つ@ニューヨーク

[第226回]宮家あゆみ ライター・翻訳者
宗教の檻の中で育つ@ニューヨーク

[第225回]戸田郁子 作家・翻訳家・編集者 もう、「理想」は追わない@ソウル

[第225回]戸田郁子 作家・翻訳家・編集者
もう、「理想」は追わない@ソウル

[第224回]浅野素女 ライター 保守系文化人の「遺言」@パリ

[第224回]浅野素女 ライター
保守系文化人の「遺言」@パリ

[第223回]泉京鹿 翻訳家 習近平の若き日々@北京

[第223回]泉京鹿 翻訳家
習近平の若き日々@北京

[第222回]園部哲 翻訳者 老夫婦の冬と夜明け@ロンドン

[第222回]園部哲 翻訳者
老夫婦の冬と夜明け@ロンドン

[第221回]美濃口坦 翻訳家兼ライター 旧東独政治家の奮闘@ミュンヘン

[第221回]美濃口坦 翻訳家兼ライター
旧東独政治家の奮闘@ミュンヘン

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示