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[第213回]首都の文化遺産を辿る@ソウル

戸田郁子 作家、翻訳家


歴史・文化部門のベストセラーは、上位2冊が『私の文化遺産踏査記』シリーズの新作。著者の美術史家ユ・ホンジュンは、文化財庁の長官も務めた。24年前にシリーズの刊行が始まり、国内の史跡巡りがブームとなった。


これまでの著作では主に地方を巡ったが、新刊はついにソウル。第9巻はソウルの五つの宮闕(きゅうけつ)のうち、宗廟、昌徳宮、昌慶宮を取り上げた。第10巻はソウルの城壁、徳寿宮、東廟、成均館だ。


400ページを超える厚さを難なく読み進められるのは、著者のユーモア感覚による。「文化財庁長官に任命するのですぐ青瓦台に来い」との電話に、著者は「妻に聞いてみないと」と答える。そして、妻の答えに読み手は爆笑する。「そこ、給料はいくらなの」


宗廟は韓国初の世界文化遺産。朝鮮王朝の歴代王と王妃を祀った祠堂で、一種の神殿だ。


「(外国人が宗廟に感動するのは)パルテノン神殿のような外観の荘重さだろう。しかし宗廟の本質は、正殿前の空間の非物質的な美しさにある」と、建築家スン・ヒョサンの言葉をひく。不規則な石畳は、そこに佇む者を彼岸へといざなう魅力を持つ。


宗廟で行われる儀式(宗廟祭礼)も無形文化遺産だ。


祭礼で使われる音楽は、世宗(セジョン)大王が作曲したもの。ハングルの発明で名高い世宗が、実は絶対音感の持ち主だったというエピソードには、「へえ」と驚いた。


山を背にして都を構えた朝鮮王朝では、宮殿ごとに見事な造園術があった。質素でありながらみすぼらしくなく、華やかでありながら贅沢でない美学。人為を自然と見せる妙にあふれた昌徳宮の後苑。

著者はその有り様をこう讃える。「建物は、自然という居間に配置された家具のよう。芙蓉池は花ござ、奎章閣はどっしりとした布団箪笥、宙合楼は気品ある衣装箪笥、芙蓉亭は花紋様の箪笥、暎花堂は端雅な小机、碑閣は穏やかな文机のようだ」


豊臣秀吉の朝鮮出兵による「倭乱」や、日本の植民地時代に消滅した建物も多かったという。

見過ごしていた民家にも、何気なく通った道にも味わい深い物語があり、過ぎた日の哀愁がある。歴史遺産は守る人がいるからこそ存在することを知る。



(次ページへ続く)

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