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「ケネディの弟」の物語

[第211回]浅野素女 ライター

 クローディ・ガレの『La beauté des jours(日々の美しさ)』は、反対に、とてもまともな人たちの物語。主人公のジャンヌはふたりの娘が巣立ち、夫とともに平凡で規則正しい生活を送っている。ささやかな幸福の瞬間がジャンヌの日常に散りばめられている。同時に、ささやかな哀しみも。それは、もっと大きなものに包まれ、強い刺激を受け、壮大な夢を追いたかったという、中年にさしかかった人の多くが覚えるさびしさ、または欠如の感覚だろう。ガレは丁寧にジャンヌの日常を描きながら、主人公が過激なセルビア人アーティスト、マリナ・アブラモヴィッチに入れ込むことで、平々凡々な日常の壁を押し広げようとする試みと、その過程を語る。


人生とは選択の積み重ねであるが、日常を美しく生きることも、決して誰にでもできる選択ではないのだと、読者は本を閉じてしみじみ思うことだろう。


Asano Motome

1960年生まれ。パリ郊外在住のライター。フランスに暮らして30年余り。著書に『パリ二十区の素顔』(集英社新書)、『生きることの先に何かがある』(さくら舎)ほか。




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