RSS

世界の書店から

「ケネディの弟」の物語

[第211回]浅野素女 ライター

デュガンと対照的に、ふたりの女性作家はひたすら主人公たちの日常に寄り添い、 心理の綾を深く掘り下げる。


毎年、この時期に新作を発表するアメリー・ノートンの『Frappe-toi le cœur(己れが心臓を打て)』は、嫉妬をテーマにした女性どうしの絆をめぐる心理劇。母親より美しかったため、自己愛の強い母親に愛されなかったディアンヌの視線を通して、嫉妬のメカニズムが、簡潔でいて含みのあるどこか御伽噺のような文体で語られる。ディアンヌの弟は母親にまともに愛された。妹は異常なほど溺愛される。ひとり母親に無視され続けてきたディアンヌは、自分の家族を冷静に観察し、愛情の欠如を祖母や友人一家に埋めてもらいながら成長する。


そして、医学部の優秀な女性教師オリヴィアに献身的に尽くすことで、自己実現をあるところまでは成功させる。敬愛するオリヴィアの友情と信頼を勝ち得たことに、ディアンヌは満足する。オリヴィアの娘に幼い頃の自分の面影を見て、その面倒まで買って出る。オリヴィアもまた、娘を愛せない母親だったのだ。だが、ディアンヌは次第に、単にオリヴィアにうまく利用されていただけだということに気づく。 

対象が美しさであれ、才能であれ、「人に認められたい」という願望は、誰もが心の中に隠し持つもの。その願望を病的なまでに推し進めていくと、ディアンヌの母やオリヴィアのように、周囲に被害を及ぼす結果となる。ディアンヌもオリヴィアの娘も、そうした被害者のひとりであった。ふたりが結びつくとどうなるのだろう……。ノートンの筆が冴える、ちょっと恐ろしいお噺である。



(次ページへ続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

[第209回]美濃口坦 翻訳家、ライター 保守派が論じる「メルケルとは何か」@ミュンヘン

[第209回]美濃口坦 翻訳家、ライター
保守派が論じる「メルケルとは何か」@ミュンヘン

[第208回]戸田郁子 作家、翻訳家 女に我慢強いる社会@ソウル

[第208回]戸田郁子 作家、翻訳家
女に我慢強いる社会@ソウル

[第207回]宮家あゆみ ライター、翻訳者 タレント議員のユーモア@ニューヨーク

[第207回]宮家あゆみ ライター、翻訳者
タレント議員のユーモア@ニューヨーク

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示