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祖母の愛とマクロン 『エマニュエル・マクロン あまりに完璧な青年』パリで読まれてます

[第205回]浅野素女 ライター


『"Révolution"(革命)』は、マクロンの政治信条を表明したエッセー。大統領戦出馬表明とほぼ同時期に出版された。マクロンの政治思想の大枠が掴める。「世界の現実に正面から向き合うことで、私たちは希望を取り戻すだろう」と書き起こされている。 社会が分断され、国民の政治不信が深刻になる中、「希望」こそ、フランスが失ってしまっていた言葉であった。


もう一冊の『"Macron par Macron(マクロンによるマクロン)』は、『Le 1』誌に掲載されたインタビューを集めたもの。「本なしの人生は考えられない」という章が示す通り、新大統領は昔から本の虫。ラシーヌやモリエールに通じ、哲学の博士号も取っている。政治経験は浅いが、政治・哲学・思想について突き詰めて思索を重ねた人物像が浮かび上がる。


本書には著名人によるマクロン評も加えられており、中でもジャーナリストのエリック・フォトリノは、マクロンが昨年春、ジャンヌ・ダルクによるオルレアン市解放(1429年)を祝う記念日の行事に出席して演説した時のことを振り返っている。


ジャンヌは「英王国との終わりなき戦いに振り回され、ふたつに分断されたこのフランスをひとつにまとめ上げ、(中略)出自のちがう兵士たちの力を統合した」と、マクロンは「オルレアンの少女」に敬意を表した。愛国主義の象徴として長いこと極右政党の旗印に利用されてきたジャンヌ・ダルクだが、マクロンはこの英雄をフランス史の中に位置づけ直し、硬直化したイメージから解き放とうとした。


「彼女は不可能に挑むために生を受けたことを知っていた。矢のごとく、(中略)ジャンヌは既成のシステムに亀裂を生じさせた」と語る時、マクロンが自らをこの英雄の姿になぞらえていたことは明らかだろう。


フランス国民は、マクロンを大統領に選ぶことで、現代の「ジャンヌ・ダルク」に賭けたと言える。どちらも「システム」の外にいた人間だ。その選択の成否はともかく、ジャンヌ・ダルクが自らの勇敢な行動によって分断した人々を結びつけたように、マクロンは自らの言葉の力で現代フランスの分断を乗り越えようとしている。


Asano Motome

1960年生まれ。パリ郊外在住のライター。フランスに暮らして30年余り。著書に『パリ二十区の素顔』、『生きることの先に何かがある』(さくら舎)ほか。



(次ページへ続く)

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