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祖母の愛とマクロン 『エマニュエル・マクロン あまりに完璧な青年』パリで読まれてます

[第205回]浅野素女 ライター

photo: Nishida Hiroki

マクロン新大統領の誕生の仕方は衝撃的だった。10年前にはロスチャイルドの銀行家、5年前に高級官僚として大統領府入り、3年前に経済相に抜擢され、昨年、超党派的政治運動を起こして、あっという間に39歳で国の頂点に駆け上がってしまった。「一体、何者?」と、だれもがうろたえた。


『Emmanuel Macron, un jeune homme si parfait(エマニュエル・マクロン あまりに完璧な青年)』は、「ル・フィガロ」紙の記者が、氏と親交のあった人たちに取材を重ね、その人物像に迫った作品だ。仏独特のエリート養成システム、また政界と実業界が同じエリート層に支配されている実態もよくわかる。


マクロンの人格形成には、中学校の校長だった母方の祖母の影響が大きい。彼女は幼いマクロン氏に独占的な愛情を注ぎ、文学、哲学、歴史の教養を徹底的に伝授した。祖母と過ごした濃密な時間が、彼の知性と人間性の基礎を作り、その絶大な信頼と賞賛のまなざしが、彼の自信と力の背景にあるようだ。


少年期から同年代の級友の中で異彩を放っていた。20代初めには、著名な哲学者ポール・リクール(当時すでに80代半ば)のアシスタントを務めたほどだ。実業界・政界の有力者たちも、一瞬にしてその魅力に絡め取られ、結果的に彼を上へ上へと押し上げる役割を果たすことになる。「年長者を虜にする能力」を揶揄されるほどで、著者はマクロンを一種のドン・ファンと見る。あくまで、知性のドン・ファン。相手から吸収できるものを吸収し尽くすと、次のステージへ突き進む。人当たりは最高にいいが、友人は少ない。必要ないのかもしれない。


25歳年上の妻の存在が何かと取り沙汰されるが、こうした関係性の延長線上に置けば、わりとすんなり納得できる。フランス語教師だったブリジットさんは彼の才能を見抜き、文学を通して二人の間に固い絆が結ばれた。ありきたりの恋愛感情とは一線を画し、彼は思春期をすっ飛ばして、すでに3人の子を持つ女性の家庭に入り、「父親」としての役割を引き受けた。周囲の猛反対に耐え、結婚まで10年をかけた強靭さは、ひるがえれば、常識の枠外で生きることを選ぶだけの、文学的・思想的ヴィジョンを持っていたからだろう。その矛盾や謎も含めて文学的幅のある大統領の登場は、実に久々のことである。



(次ページへ続く)

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