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歴史に翻弄された母を描いた『マリウボリから来た母』ドイツで読まれてます

[第204回] 美濃口坦 翻訳家兼ライター


『Die Geschichte der Bienen (ミツバチの歴史)』は2015年にノルウェーで出版されてベストセラーになり、少し前にドイツでも刊行された。作者のマヤ・ルンデはテレビの脚本や児童文学の分野で活動している人で、本書は彼女が大人のために書いた最初の小説である。


小説というジャンルを借りて、ミツバチの歴史を描くために著者は三つの物語を用意する。


一番目の物語は1852年、英国・ハートフォードシャー州の生物学者、ウイリアムが主人公だ。学者への道がとざされ、大家族を養うためにはじめた種屋商売もうまくいかない彼は、蜂を効率よく養える工夫が施された近代的な養蜂箱を設計する。


次の物語の舞台は2007年、米国のオハイオ州。養蜂場を経営するジョージは息子に跡を継いで欲しいと思っているが、カレッジに通う息子は、ジャーナリスト志望で気が進まない。そのうちにジョージの養蜂場では、ミツバチが帰ってこなくなり、コロニーがどんどん消えていく。養蜂場拡大路線を進めてきた父親は絶望する。


三つ目の物語は2098年、中国・四川省の果樹園女性作業員タオを主人公とする。木に登り、筆で花を受粉させるのが彼女の仕事だ。タオは一人息子を大事にし,いい教育を受けさせたいと願っている。


ある日親子3人が果樹園でピクニックをしていたところ、息子が急に倒れて呼吸困難に陥り気絶。病院に連れていくと、その後両親は息子に会えなくなり、しばらくして、息子が北京の病院に送られたという連絡を受ける。タオは北京に行き息子をさがすが、どの病院にもいない。北京の町は治安が悪く、住民数も少なくなっている……。


本書の特色は、21世紀末のタオの話が語られていたかと思うと、次は19世紀半ばのウイリアムに移り、しばらして21世紀初頭のジョージになるといった具合に、行ったり来たりしながら小説が進行する点にある。


三つの物語は時代も場所も異なるが、話は決してバラバラにならず、読者は最後まで小説に引き込まれながら、「ミツバチの歴史」と取り組むことなる。


本書は評判がよく、30カ国で翻訳刊行されるだけでなく、映画化も準備されているという。



(次ページへ続く)

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