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[第196回]行動経済学を生んだ友情@ニューヨーク

宮家あゆみ ライター、翻訳者



『Thank You for Being Late』は、ピュリツァー賞を3度受賞し、現在も精力的にニューヨーク・タイムズ紙にコラムを寄稿するジャーナリストのトーマス・フリードマンの新刊。テクノロジーの進歩、市場のグローバル化、そして地球温暖化に伴う気候変動など、いま世界では、さまざまな事象が急速に変化している。本書は、現在の世界状況を膨大なデータをもとに、わかりやすく解説。読者に全体像を提示しながら、未来への指針を論じている。


フリードマンは07年をテクノロジー発展の歴史における転換期だと説明する。この年、アップル社のiPhoneをはじめ、いまでは存在があたりまえになっているさまざまのものが誕生した。短文の投稿を共有するコミュニケーションツール、ツイッター、グーグル社のスマートフォン用OSアンドロイド、アマゾンの電子書籍端末キンドル、IBM社による人工知能ワトソン、オンライン上でキャンペーン活動を展開するChange.orgや個人による宿泊施設貸し出しサイトAirbnbが生まれたのもこの頃だ。太陽エネルギー、風力発電、発光ダイオード、省エネルギー建築物、電気自動車などの開発利用が大きく発展し始めたのもこの時期だ。フリードマンの指摘を読むうちに、わずか10年の間に自分を取り巻く世界が様変わりしていたことに改めて気づかされる。


著者が『フラット化する世界』を執筆していた04年当時を振り返る記述が面白い。「フェイスブック(Facebook)は存在しないも同然、あの頃、ツイッター(Twitter)は単なる音でしかなく、クラウド(Cloud=雲)は空にあったし、4Gは駐車場、アプリケーションは大学に提出する願書のことだった。リンクドイン(LinkedIn)は、ほとんど知られておらず、多くの人が刑務所のことだと思っただろうし、ビッグデータ(Big Data)はラップスターの名前にふさわしい。スカイプ(Skype)は誰もがタイプミスとしか思わなかっただろう」と。


テクノロジーの進歩がグローバル化を加速させ、これまでの世界のあり方を根本から変えようとしている。「以前と比べて、より多くの場所で、より多くの人々が、さらに多くの人々と、より少ない予算で、より簡単に、競争し、つながりあい、協力する同等の機会を得ている」と著者は説明する。例えば著者がコラムを書く場合、その時の居場所がニューヨークであろうがアフリカのニジェールであろうが、スマートフォンで原稿を書き、インターネット上にアップロードさえすれば、全世界に配信され、瞬時に反応が返ってくる。同じことをする手段を、いまやほとんどすべての人が手にすることができるのだ。


短い間に次々と起こる変化に対応するなか、人間は立ち止まって考える時間を失いつつあるとフリードマンは語る。タイトルの『Thank You for Being Late』は、待ち合わせ場所に相手が遅れたことで、待っている間に物事を考える時間ができた、遅れてきてくれてありがとう、という意味だ。


半導体の処理能力の向上、小型化、低価格化は、これまで以上のスピードで変化していくとの予測がある。社会も同様に、日常生活、商業活動、政治などを含めたあらゆる事象が同時並行的に、お互いに影響を及ぼし合いながら、加速度的に変化していく。果たして人間はこの変化に随時、対応し、安定した社会を保ち続けることができるのか。それが今後の大きな課題だとフリードマンは指摘する。実際、本書を執筆した2年半の間に、著者はそれぞれの取材相手に少なくとも2回以上の連絡を取ったという。本を書いているうちに情報が古くなってしまったからだ。


フリードマンはジャーナリストとしての自分を、調査や研究ではなく、説明を得意とする「英語から英語への翻訳者」と呼ぶ。現在の問題点を冷静に把握すれば、対処方法も生み出されていくだろうと未来に対するフリードマンの姿勢は楽観的だ。後半では、アメリカ政府が今後、取り組むべき事項もリストアップしている。彼の予測通りに物事が動くことを願う読者は多いだろう。



(次ページへ続く)
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