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[第196回]行動経済学を生んだ友情@ニューヨーク

宮家あゆみ ライター、翻訳者



photo: Semba Satoru

『The Undoing Project』は、『マネー・ボール』などで知られるノンフィクション作家マイケル・ルイスの新作。2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンと1996年に没した共同研究者エイモス・トベルスキーの伝記だ。2人の天才的なユダヤ人心理学者が社会に与えた功績と、彼らの複雑な友情が描かれている。


70年代以降、彼らが発表した人間の意思決定に関する一連の研究論文は、独創的かつ革命的なものだった。例えば、不確実な状況下において人は必ずしも合理的な判断をするわけではない。その意思決定の過程を説明したのがプロスペクト理論だ。2人の研究は行動経済学という経済学の新分野を作りだし、医療、政治、スポーツなど、現代社会に多大な影響を与えた。


彼らの出会いは60年代後半。共にイスラエルのヘブライ大学で教壇に立っていた。カーネマンは内向的で自省的。一方のトベルスキーは社交的で大胆。一見、接点のなさそうな2人だが、研究者としてのお互いが、刺激を与え合い、欠点を補い合える唯一無二の存在であることを知る。大学の一室で何時間も語り合い、一台のタイプライターで一緒に論文を書いた。あの頃、2人はひとつの心で考えていたとカーネマンは言う。論文の執筆者名の順番もコインを投げて決めた。結果はトベルスキーの勝ちだった。


仕事が世に認められるにつれ、2人の間に亀裂が生じていく。周囲から研究の主導者とみなされたトベルスキーばかりが社会的に評価された。やがて彼はカーネマンを見下すようにもなった。共同研究は続けられたが、カーネマンが心に受けた傷は深かった。


だが96年、余命わずかと宣告されたトベルスキーはすぐにカーネマンに連絡をする。2人はトベルスキーの死の直前まで連絡を取り続けたという。


共に祖国イスラエルへの愛国心は強く、戦時には国防軍にも参加した。2人の心理学者の物語は人間について、そして人生について新たな視点を与えてくれる。



(次ページへ続く)

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