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[第195回]一編の詩がくれる希望@ソウル

戸田郁子 作家、翻訳家



photo: Semba Satoru

昨秋以来、韓国民の目はニュースに釘付けになっている。刻々と更新される、ドラマより奇なる現実。


激しい怒りや幻滅から、じっとしてはいられない人々が、週末ごとにデモに集う。こんな時世に、心落ち着けて本を読んでいられる者が、どれほどいるか。そう思っていた矢先の新年早々、「大手取次が不渡り」というニュースが飛び込んできた。創業57年になる、業界大手の老舗流通業者が、1号不渡りを出した。出版界や書店業界の混乱は必至だ。


詩集『もしかしたら、星があなたの哀しみを持っていくかもしれない』が1位だ。68歳の詩人、金龍澤(キム・ヨンテク)が、洋の東西を問わず、新旧取り混ぜて編んだ111編の詩選集。読むだけでなく、筆写していやされることを目的としている。


人気詩人による詩選集は、これまでいくつもあった。金は1982年にデビューし、ファンも多い。それなのに「詩人と呼ばれるのは、今も恥ずかしい」と言う。素朴でユーモラスな人柄が、どんな詩を選んだのかも興味深い。


「詩集が一冊売れれば/私に300ウォン入ってくる/薄利だと思ったが/荒塩ひと升かと思えば/青い海のようにひとつも傷つかない」(「肯定的な飯」ハム・ミンボク)


先日、光化門広場での大規模デモで、歌手たちによる舞台の幕あいに、ある詩人が詩を朗読した。お祭り騒ぎのような群衆が、しんと静まって耳を傾ける姿に、詩の持つ底力を感じた。この国にはまだ、希望が残っていると信じたい。


詩集の帯に印刷されているのは、人気ドラマ『トッケビ(鬼)』のポスターだ。ドラマの中で主人公が、この本を使って詩を筆写した。放映直後の12月第2週に売り上げ1位に躍り出て、首位を守っている。ドラマ視聴者の多くが、10〜20代の女性だと聞く。


騒々しい世の中だからこそ、ささやかな幸せを切望するのか。一編の詩に、明日を生きる勇気をもらいたいのか。詩句とともに、静かに深いところへと降りて行きたい気分になる。



(次ページへ続く)
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