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[第193回]綱紀粛正が強まるいま@北京

泉 京鹿 翻訳家



photo: Semba Satoru

書籍のベストセラーはある面でその社会の空気を反映するものであり、時代の現実や人々の気持ちと浅からぬ結びつきがあるはずだ。


数ある本の中からここで紹介する1冊を選ぶとき、まず内容も売れている背景も「いまの中国社会の空気が伝わるものであること」を基準にしている。


昨年、王躍文『紫禁城の月 大清相国 清の宰相 陳廷敬』と閻連科『炸裂志』の二つの小説の邦訳を上梓した。前者は原作『大清相国』を2014年3月16日号のこの欄で紹介したのを読んだ編集者が「ぜひこの本を日本で」と筆者を尋ねて来てくれたのがきっかけだ。歴史に詳しい友人との共訳で2年がかりで刊行にこぎつけた。他にもこれまで紹介した本には「読みたい」「翻訳はないのか」など読者や出版社から問い合わせがあり、のちに日本で翻訳、刊行されたものも少なくない。二つ目の基準は「自分が翻訳したい」あるいは「誰かに翻訳してほしい」「日本でも読まれてほしい本」。


けれど、今回はそういう思いとはかけ離れたものを選ばざるを得なかった。


『中国共産党的九十年』(全3巻)は、あえて日本で翻訳・出版してほしいと思う本ではない。文字は比較的大きく、文章も平易で読みやすいが、読んでいて特に楽しいものでもない。けれど、これもベストセラー、しかも昨年6月末に刊行され、4カ月足らずで100万部を突破したミリオンセラーである。しかし、友人知人に尋ねて回っても買ったり読んだりした人は皆無。これが王躍文や閻連科のようなベストセラー作家の作品なら、北京で石を投げれば必ず読者にあたるのだが。


「企業家が買って、友人知人に贈るのでは。ゴマすり用に」「誰も個人では買わない。国営企業の資料室、図書館がそれぞれ買うだけでベストセラー」「13億の人口で共産党員が8000万人いる中国で100万部など大した数字ではない」


返って来るのはこんな言葉ばかりだが、ちゃんと読まれていないわけではない。本書の学習会も各地で開かれ、人々は一字一句、精読している。綱紀粛正が強化される今、天安門事件など共産党のタブーがいかに評価、定義されているかを認識していなければならないからだ。




(次ページへ続く)
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