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[第192回]歴史を貫く24本の「道」@ロンドン

園部 哲 翻訳者



photo: Semba Satoru

『The Silk Roads』

シルクロードを歴史認識の中心に置け、と説く啓蒙の書である本書はオリエンタリズムとは無縁の、史実と地政学を直視した600ページを超える大作。ヘンリー8世の離婚を学習することに何の意味があるか、と少年時代に自問した著者は、知的拘束服ともいえるヨーロッパ中心主義からの脱却を目指し、古代から現代まで文明の原動力はアジアにありと確認する。その研究成果を著者は24本の「道」というテーマに乗せて縦横無尽に語った。例えば「信仰の道」「革命の道」「奴隷の道」「銀の道」「虐殺の道」等々。


参考文献ページは100ページというものすごさだが、特徴は原典がおしなべて新しく最新の研究成果を踏まえている点。例えばモンゴル帝国支配の成功の秘訣は勇猛さだけでなく、低い税率にもあったという説。彼らの支配下にあった黒海での関税は3~5%を超えることはなかったが、同時期のアレクサンドリアにおける関税は10~30%だったという。この数字は2012年のオランダの出版物を典拠とする。


100ページが原典紹介だから、残り500ページで24本の「道」を語るわけで、1テーマが20ページ前後のエッセーと思えば読みやすいし、興味深いエピソードにも事欠かない。8~10世紀頃のヨーロッパ・イスラム世界では奴隷貿易が盛んだった(イスラム商人に人気のあった奴隷がスラヴ民族。ゆえに奴隷=スレイヴへと派生)。よって、イタリア語の陽気な挨拶「チャオ!」も語源はベネチア方言の「スチャオ・ヴォストロ」=「私はあなたの奴隷です」にあるという。


「シルクロードは再興の時を迎えた」というのが本書の結語である。それは、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、カザフスタンなどの天然資源のポテンシャルと、中国の「一帯一路」構想(陸上シルクロードと海上シルクロードの構築)という巨大なビジョンを買っての洞察のようだ。この結論は楽観的すぎるという声も少なくないが、博覧強記のビザンツ史家が素人向けに書き下ろしてくれた発見の多い好著である。




(次ページへ続く)

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