RSS

世界の書店から

[第190回]空白だらけのページに・・・@ソウル

戸田郁子 作家、翻訳家



photo: Semba Satoru

店頭に並ぶ前から、予約販売で1位を獲得していた『ブロノート』。書店販売を待って、手に取った。ビニールを外して本を開くと、2〜3行の短い言葉とページ数だけが印字された、白っぽい中身に驚いた。


空白だらけのページに字を書き込んだり、イラストを描いてみたり。そんな「ブロノート活用法」が、ネット上で紹介されている。著者も、読者が自分なりの一冊を作ることを歓迎している。


著者タブロ(36歳)は、エピックハイというヒップホップグループのメンバーで、作詞作曲、歌までこなす。8年前に出した小説もベストセラー、人気DJともなり、女優と結婚して、かわいい女の子を授かり……。順風満帆の人生のようだが、実は大きなスランプに陥って、活動できない時期があった。名門スタンフォード大学卒の経歴を「学歴詐欺」と騒がれて、裁判沙汰に。真相は判明し、デマを流した者は処罰を受けたが、そのショックが何年も続いたのだ。


本の付録のミニCDには、25分間のタブロの独白が録音されている。深夜のラジオ番組は、こんな語り口だったのだろう。番組の終わりにつぶやいた短いコメントをまとめたのが、本書だ。


俳優や歌手、学生の手書き文字が、活字の合間、ところどころにはさまっている。思わずニヤリとしたり、深くうなずいたりする、読者の顔まで浮かんでくるようだ。


「期待以下だと言う前に、僕に見合った期待をしてくれよ」「全然知らない人とまで、疎遠になることのできる、不思議な時代」「中古楽器を買った。だれかの夢が、こんなに安いだなんて「死に対する恐れは、おそらく生に対する焦り」「なりたい自分と、なるであろう自分の間隔を狭めるのは、情熱」「僕の記憶に住むのなら、家賃だせ」「大人になるって、より良い人間になることじゃないんだな」


23歳のデビュー当時は、もっととんがっていたという評もある。痛烈な社会批判をラップで歌い、斬新な音楽性で注目を集めた。32歳で大手芸能プロダクションに移籍し、大衆との距離が縮まった。


つらさや重さを乗り越えるのは、やわらかな感性。そんなことを教えてくれる。




(次ページへ続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

[第214回]宮家あゆみ ライター・翻訳者 ヒラリー「敗北」を語る

[第214回]宮家あゆみ ライター・翻訳者
ヒラリー「敗北」を語る

[第213回]戸田郁子 作家、翻訳家 首都の文化遺産を辿る@ソウル

[第213回]戸田郁子 作家、翻訳家
首都の文化遺産を辿る@ソウル

[第211回]浅野素女 ライター 「ケネディの弟」の物語 @パリ

[第211回]浅野素女 ライター
「ケネディの弟」の物語 @パリ

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示