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[第188回] 精神障害者と語る@北京

泉京鹿 翻訳家



Photo: Semba Satoru

『天才在左 瘋子在右(天才は左に、精神障害者は右に)』は2004年からの約4年間にわたる精神障害者たちへのインタビュー記録である。最初はインターネット上に掲載されたものが4カ月で300万以上のアクセスを記録し、「国内初の精神障害者取材手記」とうたって10年に出版された。さらに今年1月には80万字ほどボリュームアップした『完全版』が刊行され、すでに200万部以上のベストセラーとなっている。


「この世界とはいったいどのようなものなのか」


きちんと説明することは誰にもできない。しかし、誰にでもそれぞれの解釈があることから「この世界は無数の側面を持つ不規則体のようだ」と考え始めた著者の高銘は、さまざまな人の世界観が知りたくなる。身近な人たちに聞いて回っていると「そんなことをしている暇があったら金儲けか結婚相手でも探せ」とあきれられ、「精神を病んだか」と言われるまでに。そこから、公安や精神科病院の関係者のつてをたどり、あくまでも「趣味」で数百名に話を聞くに至ったという。医師の職業的な冷静さとは異なる、ある種の鈍感さで患者と向き合う著者の姿勢に上から目線を感じさせるものはなく、相手への尊敬の念すら漂う。


他人がみな人間以外の生き物にしか見えないという患者には「あなたは蜘蛛」と言われる。同居人を殺した多重人格者は、寓話になぞらえた話をしながら自殺をほのめかし、後にその通りに自殺する。ひやりとするような体験も少なくない。あるとき、憑依されたように他人になりきる女性患者からはこんなことを言われる。「いつの日か私の頭がおかしくなったように見えたら、それはあなたの頭がおかしくなったということよ」。そんな禅問答のようなやりとりを読めば読むほど理解できなくなるのは患者たちのことではなく、自分自身のことである。


本書を読んでいるうちに、村上春樹の『スプートニクの恋人』にゴシック体で登場するフレーズが頭に浮かんだ。


「理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない」




(次ページへ続く)
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