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[第187回] 言葉はレジスタンスとなる@パリ

浅野素女 ライター



Photo: Semba Satoru

フランスでは秋が新年度。文学も新作が並ぶ。その中で『我らが敗北を聞け(Écoutez nos défaites)』がひときわ光彩を放つ。著者ロラン・ゴデは、劇作畑の出身。2004年に『スコルタの太陽』でゴンクール賞に輝き、幅広い読者層を得た。


小説は、フランスの諜報(ちょうほう)員とイラク人考古学者のなれ初めの一夜で幕を開ける。甘いサスペンス・ロマンかと思ったらとんでもない。諜報員は、国家の「敵」の抹殺を使命とする自分の仕事に疑問を抱きながら、姿をくらました元米海軍特殊部隊員を追っている。考古学者は、戦争で次々と破壊され、ひそかに売りさばかれる美術品を救い出すために奔走している。


ふたりの物語にかぶさるように、フセイン、ビンラディン、カダフィら、世界を震撼させた独裁者たちの最期が、そして、イラク北部の町やシリアのパルミラ遺跡を破壊するイスラミック・ステートの進撃が同時進行的に語られる。


交響楽のように構成されたこの物語の主人公は、冒頭の二人だけではない。象でのアルプス越えという無謀な試みを実現し、ローマ帝国に挑んだハンニバル、米南北戦争で泥沼の戦いを遂行し、北軍を勝利させたグラント将軍、ムソリーニに抵抗しつつ亡命を余儀なくされたエチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシエ1世、さらには、無人航空機のボタン操作ひとつで敵を抹殺する無名の軍人、それぞれが主人公だと言える。


人類史を貫く数々の戦争を俯瞰する視点を持って、物語は、戦争に勝利するとは何か、もしかしたら勝利した側が敗北し、敗北した側が勝利している場合もあるのではないか、と問いかける。また、考古学者から諜報員にひそかに手渡された古代神の像を通し、戦争がどんなに痕跡を消そうとしても、時代から時代へ、人から人へ、永遠に継承されるものがあることが力強く語られる。たとえ敗北が明らかでも、戦争にも限りある生の流れにも、私たちは言葉を紡ぎ出すことで抵抗できるはずだ、という著者の声が聞こえてくる。


ゴデがゴンクール賞を受賞した年、 ジャンポール・デュボワは『フランス的人生』でフェミナ賞を受賞している。



(次ページへ続く)
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