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[第160回]イスラム国からの報告

美濃口坦 翻訳家兼ライター





photo: Sako Kazuyoshi

『Inside IS - 10 Tage im ’Islamischen Staat’(ISの内幕―「イスラム国」での10日間)』の著者ユルゲン・トーデンヘーファーは息子とその友人を連れて昨年12月6日から10日間イスラム過激派組織IS支配下のラッカやモスルに滞在。


彼らが西側ジャーナリストとして初めて無事に帰還できたのは、著者がドイツ出身・IS戦闘員とネットで接触し、7カ月間の交渉をへて、取材許可と安全を「イスラム国のカリフ」から保証してもらったからである。


著者は約20年間も独連邦議会議員をつとめ、その後文筆家として9・11テロ以降の米国の戦争を批判し、アラブ世界でも名前が知られている。IS指導者は、斬首や、その動画公開、奴隷制復活といった西欧人が忌み嫌うことを繰り返し、国際社会で敵対視されることも厭わないように見える。でもIS側は「批判されてもいい。嘘さえ書かなければ」といって取材を許可した。自分たちの姿を著者に書いて欲しかったからではないか。


取材は自由でなく、仲介したドイツ人に案内され、覆面をした黒装束の戦闘員から監視される。クルマの運転をしたその一人は、米国人や日本人などの処刑動画に登場したことで知られる有名人の「ジハーディ・ジョン」であることが英語のアクセントや目元から判明した、としている。


本書に住民の生の声を期待した読者は失望するかもしれないが、著者のお供をするIS戦闘員との接触が面白い。彼らはペプシを飲みながら著者の質問に回答。彼らは自分たちの論理だけが通用する別世界に住んでいるようだ。例えば著者からヤジディ教徒の女性を強姦したと非難されると、戦闘員の一人は、彼女たちは自由意志が認められていない奴隷である以上、強姦したことにならないと反論する。


戦闘員はISがシリアでは嫌われていることを認め、社会政策を充実させていたアサド政権の人気が高かったからだと説明する。反対にイラクでは住民から受けいれられていると思っている。著者は、イラク住民はイスラム法の厳格な適用を歓迎していないが、フセイン政権崩壊以来の悪い治安状態が続くよりましだと思っているからだと推定する。


トルコ・シリア国境の著者の記述から、ISの戦闘兵に志願する若者が世界各地からひっきりなしに来ている印象を受けた。


「見えない敵」のテロリストが自分から「イスラム国家」と称して「見える敵」に変貌した。米国は今まで「見えない敵」を爆撃ばかりしてテロリストの数を増大させており、敵が見えるようになると別の解決が可能になるかもしれないと著者は主張する。



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