RSS

世界の書店から

[第137回]「ソウルの春」が目指したもの

戸田郁子 作家、翻訳家





photo: Sako Kazuyoshi

韓国のベストセラーを眺めると、いわゆる「左傾人士」の著作がよく売れている。読書を好む層は、保守派より「進歩」派が多いからなのか。今回取り上げたうち2冊も、そんな傾向を裏付けている。


『私の韓国現代史』の著者ユ・シミンは、自称「政治に失敗し文筆業に戻った、プチブル階級の知識エリート」。ジャーナリスト出身。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で保健福祉部長官を務め、進歩派を代表する政治家となるが、朴槿恵(パク・クネ)政権発足の直前に政界を退いた。


発表する著作は、次々とベストセラーに。新作は、著者の生まれた1959年から2014年まで、?年間の韓国社会の記録だ。「冷静な観察者ではなく、煩悶(はんもん)する当事者として、われわれ世代が生きてきた歴史をふり返った」


反共を掲げた恐怖政治の時代は、厳しい検閲制度、ベトナム派兵、金大中拉致事件、在日韓国人の留学生も巻き込まれたスパイでっち上げ事件などを取り上げる。電話やマイカーの普及、学校での古典読書運動、セマウル(新しい村づくり)運動、住民登録制度の始まりなど、個人的な記憶からも世相が描かれる。


著者が関わった学生運動の話では、筆致ががぜん、生気を帯びる。無期刑囚や死刑囚が続々と政治家となり、大統領に上り詰める時代に至る苦難の道だ。


「民主化運動家は、自身の命を捨てることで大義を伝え、大衆の関心と覚醒を呼び起こそうとした。テロや暗殺ではなく、焼身と投身を選択した闘争は、世界史の中でも非常に珍しいことだ」


80年5月、著者はソウル大総学生会の幹部として、「ソウルの春」と呼ばれた民主化闘争の中心にいた。権力に踏みにじられた痛み、左翼イデオロギーの伝播(でんぱ)、激烈化する闘争から派生した理念の対立、「連続的・同時多発的・全国的都市蜂起」を目指した運動……。


情報が統制されていた混沌(こんとん)の時代が、当事者の視点で明らかにされる。同時代を生きながら内情を知らなかった読者も、その時代を知らない若い読者も、驚きと共に、近い過去を反芻(はんすう)するだろう。


多くの国民が等しく貧しい独裁国家から、豊かだが不平等な民主国家となった韓国。今、成熟した民主主義を実現するため、「市民参与」の時代に入る。



…続きを読む

この記事の続きをお読みいただくためには、購読手続きが必要です。
GLOBE総合ガイド
  • ログインする
  • ご購読申し込み

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

「朝日新聞デジタル(フルプラン)」を購読済みの方は、ご利用のログインID・パスワードでGLOBEデジタル版の全てのコンテンツをお楽しみいただけます。「ログイン」へお進みください。
朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

[第216回]園部哲 翻訳家 ブレグジットのやめ方@ロンドン

[第216回]園部哲 翻訳家
ブレグジットのやめ方@ロンドン

[第215回]美濃口坦 翻訳家兼ライター EU官僚の実像を描く@ミュンヘン

[第215回]美濃口坦 翻訳家兼ライター
EU官僚の実像を描く@ミュンヘン

[第214回]宮家あゆみ ライター・翻訳者 ヒラリー「敗北」を語る

[第214回]宮家あゆみ ライター・翻訳者
ヒラリー「敗北」を語る

[第213回]戸田郁子 作家、翻訳家 首都の文化遺産を辿る@ソウル

[第213回]戸田郁子 作家、翻訳家
首都の文化遺産を辿る@ソウル

[第211回]浅野素女 ライター 「ケネディの弟」の物語 @パリ

[第211回]浅野素女 ライター
「ケネディの弟」の物語 @パリ

[第212回]泉京鹿 翻訳家 自立目指す元専業主婦@北京

[第212回]泉京鹿 翻訳家
自立目指す元専業主婦@北京

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示