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世界の書店から

[第68回] 長編小説の衰えない力

泉京鹿 Izumi Kyoka 翻訳家

 

 

『一句頂一万句』(一万の言葉に匹敵する一言)は、09年刊行当時もベストセラーであったが、先ごろ中国で権威ある文学賞のひとつである茅盾文学賞に輝き、再び話題となった小説。

 

著者の劉震雲といえば、数々の作品が映画化され、『手機』など馮小剛(フォン・シャオガン)監督との二人三脚で脚本家としても定評あるヒットメーカーである。

 

著者ならではのセリフ回しにあふれるユーモアは、本作でも健在だ。中国人にとって言葉、ひいては会話がいかに大切かということを思い知らされる。


前半の「出延津記」の主人公は、呉摩西。妻に逃げられた後、妻の連れ子だった養女を旅の途中で見失い、彼女を探して河南省・延津を出てゆく。

 

後半の「回延津記」は、人買いに売られた養女がのちに生んだ息子・牛愛国の話。母の養父である呉摩西の話を聞かされていた彼は、いつしか母の故郷・延津を目指す。


最初は誰が主役なのかわからないほど、人物が次々に登場し、それぞれのキャラクターとエピソードが細やかに描かれる。どれだけ言葉を尽くして語っても埋められない孤独。時代を超えて同じ苦しみに悶(もだ)える祖父と孫が求めた救いとは……。


「摩西」はイタリア人宣教師に授かった名前で、「モーゼ」の中国語表記。『出エジプト記』がこの作品のモチーフになっていることがほのめかされている。

 

『魯班的詛咒』(魯班の呪い)は、日本ならいわば聖徳太子が殺人装置をつくるという話。歴史上の人物を題材にしたミステリーも人気のジャンルである。

 

 

(文中敬称略)

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