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世界の書店から

[第51回] 80后が見せるネットと書物の力

泉京鹿 Kyoka Izumi 翻訳家


ネットの力といえば、若者のオピニオンリーダー、人気ブロガーで作家の韓寒の存在を抜きには語れない。韓寒は昨秋、「国内に対して平和的なデモのできない民族が、外国に対していかなるデモをしたところで何の価値もない。そんなものは単なるマスゲームだ」と結んだ文章をブログで発表。

 

当局によってすぐに削除されたが、尖閣諸島沖漁船衝突事件を受け、日本に抗議するデモを起こそうという若者たちの動きに、この文章は一石を投じ、波紋を呼んだ。社会的な事件について、権力におもねることなく、批判をものともせず、思うところを発信し続ける姿勢が支持される彼のブログは、総アクセス数4億4000万件を超える。

 

しかし、若者の気持ちを代弁するばかりではなく、冷や水を浴びせかける発言も少なくなく、自身が批判にさらされることも。また最近では、編集長として紆余曲折(うよきょくせつ)を経てようやく創刊にこぎ着け、150万部を売り上げた雑誌『独唱団』が、当局の圧力で発行を続けられなくなり、第二号発行を前に編集部解散を年末にブログで発表したばかり。韓寒は常に多くの支持を受けるとともに、逆風にもさらされている。


『1988 : 我想和這個世界談談(ぼくはこの世界と話したい)』はその韓寒の最新作。レーサーでもあり、ブログの言動など作家以外の活動が注目されがちだが、毎年のように長編小説を発表し続け、読者の期待を裏切らない。物語は、廃車寸前だった1988年製のワゴン車に乗って、それを修理してくれた友人に会いにいこうとする主人公と、いつしか道連れとなった妊娠している売春婦・ナナとの奇妙なドライブの旅を描く。

 

コミカルな会話やエスプリの効いた描写で挿入される、彼女の身の上話や主人公の子供時代、かつての恋人との生活の記憶は、売春婦のロジックや芸能界の暗黙のルールなどをさらけだし、中国社会の本音と建前をあざ笑うかのよう。主人公が幼いころ慕っていた近所の丁丁兄さんは、亡くなった理由も時期もはっきりとは書かれていないが、1989年の春に大学生で、その夏にはもう生きていなかったことが暗示されている。仮にその年の6月に起こった事件に触れていたら、この本は出版されていなかったに違いない。タイトルの意味を、深読みしたくなる。


ドライブの目的地は刑務所で、友人にはすでに死刑が執行されていた。主人公の前から姿を消したナナが彼に残したものは……。シュールな結末なのに、読後感がさわやかなのは、物語が、失った青春への愛おしさを描くことに成功しているからだろう。


小瀋陽と韓寒。分野は違うがいずれもいま目が離せない、現代中国を象徴し、80后を代表する2人を読むことのできる2冊である。

 

 

北京のベストセラー

 

1. CCTV(中国中央電視台)の人気キャスター白岩松のエッセー集。


2.は1と同じくCCTVの人気キャスター・崔永元氏が自ら投資して制作し、昨秋に放映されたドキュメンタリー番組の書籍化。

兵士、捕虜、医療従事者、女性などさまざまな立場の抗日戦争体験者300人のインタビュー、当時の写真で構成されている。


5. 絶妙トークの名手として知られる台湾のバラエティー番組の司会者が、会話のコツを語る。


6. 家族のこと、ペットのこと、授業をさぼったこと、家出したこと……。現在20代後半から30代にとっては懐かしい、1980年代の地方都市の典型的な家庭の物語。

著者はテレビ番組のプロデュースや脚本、司会、コメンテーターも手がける女性作家。


7. 「気場」とは、カリスマ、オーラの意。「『NYタイムズ』『ウォールストリートジャーナル』『ニューズウィーク』『タイム』など160のメディアが特集!」「ビル・ゲイツ、オバマ……世界の政治界、経済界のトップクラスの人物が活用する成功の秘密!」と派手なコピーが帯に躍る。

英語からの翻訳とあるが、奥付に著者名の英語表記もなく、原書不明。あまりに中国的な内容で、ネット上でも「翻訳ではなく、中国人が書いたものでは?」との議論も。存在自体、ある意味非常に中国的な一冊。


8. 融資の世界への窓口として、香港の特殊性、優位性を説き、上場、投資を中国の起業家や投資家に勧める経済書。


9. 公務員の主人公が農村の計画出産、選挙、国有企業改革などの施策や事件処理を経験し、上級機関へと昇進してゆく「官界小説」のシリーズ4作目。すでに5作目も発売された。


10. 06年にネット上で話題になり、盗掘アドベンチャー小説ブームを引き起こした『鬼吹灯』(全8巻)。最後まで謎とされていた秘密が明かされるという、ファン必読の書。

 

 

 

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