TOPへ
RSS

世界の書店から

[第27回] 上海バブルが生んだ光と陰

泉京鹿 Kyoka Izumi 北京在住翻訳家

中国では毎年11月末に「作家長者番付」が発表され、ひとしきりメディアをにぎわせる。

 

近年の話題は2007、08年と2年連続トップの郭敬明に集中。08年は100万部を超える単行本の他、月2回発行で各50万部を誇る若者向け文芸誌の編集長として、推定1300万元(約1億7300万円)の印税収入で2位以下に圧倒的な差をつけた。

09年の1位は2000万元(約2億6700万円)で童話作家の鄭淵潔。郭敬明は2位だったが、メディア露出は相変わらずで、鄭よりはるかに多い。20代半ばという若さ、アイドル顔負けの華やかなイケメン、さらに派手な話題を惜しみなく提供し、毀誉褒貶、さまざまな議論を巻き起こす。存在自体が常に「新聞人物(ニュースな人)」なのだ。

 

その郭敬明が本来の予定通り、『小時代2.0虚銅時代』を昨夏に出していれば、09年のトップも彼だっただろう。08年に刊行された『小時代1.0折紙時代』に続く全5部作の2作目となる本作は初版120万部。昨年12月30日の刊行後、飛ぶように売れている。読者は主に10~20代。定価26.8元(約360円)だが、99元(約1320円)で6万冊限定の秘蔵版も予約だけで完売したという。

舞台は上海。22歳の女子大生4人、林蕭、顧里、南湘、唐宛如のそれぞれの恋人、上司や同僚、家族との友情、愛情をめぐるさまざまな事件が、現実世界の出来事と並行して展開してゆく。見どころは、まず資産家のお嬢様・顧里の、これでもかという贅沢ぶりとクールな女っぷりだ。シャネル、ルイ・ヴィトン、エルメス、プラダ、カルティエ……家にあるもの身につけるものすべてが高級ブランド尽くしで、美人で頭脳明晰で高慢で極端な拝金主義。事件の多くは彼女の周囲で起こる。そして、4人の中では平凡で現実主義の林蕭がアシスタントとして働く雑誌『M.E』の編集長・宮渉。映画『プラダを着た悪魔』のミランダの男性版をイメージしたという重度の潔癖で完璧主義のカリスマ編集長に、著者本人を重ねる読者も多い。

本作では、宮渉の下で働くようになった顧里が秘かに会社乗っ取りを企み、2人の静かな戦いが始まる。さらに、胃がんで死んだはずの林蕭の恋人で人気作家が姿も名前も変え、帰って来て……。

世界的金融危機もなんのその、上海バブルが生んだ若いセレブたちの生活のカタログのようでもあり、漫画のようでもある(実は漫画版もある)。登場人物たちから飛び出す世の中をナメきった傲慢なセリフにちりばめられた流行語やスラング、中国「80後(80年代生まれ)」の価値観も面白い。しかし、一見軽薄なバブル要素満載、疾走感ある展開なのに、ところどころに潜む暗さが気になって仕方がない。

完結までは最低でもあと3年。予測できない現実の上海の未来といかに絡んでいくのかも合わせて、続刊が待ち遠しい。

(次ページへ続く)

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ