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イタリア半島沖に浮かぶサルデーニャ島。地中海の真ん中にあって海路の要衝となり、太古の昔からフェニキアやギリシャなど諸民族・文明の交流が絶えなかった。今はエメラルド色の海と奇岩やがけに囲まれた白浜が多くのリゾート客を魅了するが、同時に日本の沖縄本島に似て、自国や北大西洋条約機構(NATO)と米国の陸海空軍の基地、演習場・射爆場に広大な地域を占有されるという「矛盾」も抱えている。
今回は、あまり目にする機会のない同島の作家の作品を取り上げてみた。
『La contessa di ricotta』(「リコッタ伯爵令嬢」)は、サルデーニャ州都カリアリ市内の高校でイタリア語を教えるミレーナ・アグスの4作目の小説だ。小さな出版社の刊行による小品で、大手のような広告宣伝もなく静かにベストセラーに登場した。「リコッタ」は柔らかいチーズだが、腰のない歯触りから、何をやらせてもしくじる虚弱な意気地無しの比喩(ひ・ゆ)でもある。
舞台は港町カリアリ市の中心の高台にある旧市街カステッロ地区で、主人公は17世紀の豪壮な邸館で質素に暮らす伯爵令嬢三姉妹。長女ノエミは判事で、嫁がぬまま家長役となっている。一家の貴重な家具や食器を大切に保持し、いまは亡き両親の介護などのために切り売りされた邸館の居室を買い戻して栄華再現を夢見る。容姿に恵まれ料理も裁縫も得意な次女マッダレーナは、子供欲しさのために就職せず、銀行員の夫サルバトーレと熱心に試みるものの、なかなか子宝に恵まれない。

そして末娘は「リコッタ」のあだ名の通り、何事につけへまばかり。生徒にまで笑い物にされる気の弱い代用教員だが、心もリコッタのように柔らかく、人助けに労を惜しまない。姉妹のなかで唯一子持ちだが、妊娠を知った相手がおじけづいたため結婚はせず、認知だけしてもらった息子カルリーノを姉妹で養育する。
3人の伯爵令嬢たちは、それぞれ「精神」「肉体」「心」を具現している。互いに反目と協調を重ねつつ、三者三様の幻想と喜怒哀楽がシンプルに語られる。そこから伝わるのは「人生はすべて善と悪の混ぜ合わせであり、時に善が勝り、時に悪が勝りながら際限なく続く」ということ。平凡な日常に幸せを見いだし、「世の中というシステムの一部を成していると感じることはとってもすてきなこと」とつぶやくリコッタ嬢に共感するのは単純すぎるのだろうか。
大事な話があるときに決まって姉妹が出かける浜辺や家政婦の家族の住む田園の描写は印象的だ。貧者も富裕な者も、知識人も無知な者も同じ建物に暮らす街区の情景も、島の過去の栄光の名残と旧来の都市生活のスタイルを伝えて興味深い。
蛇足だが、本著者と同じくサルデーニャ島出身の作家グラツィア・デレッダ(1871~1936)は、イタリア人の女性作家として唯一、1926年にノーベル文学賞を受賞している。
(次ページへ続く)