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高層ビルが立ち並び、ブランドショップが軒を連ね、高級車がひしめき合う街角。ここが社会主義国だということを、時々、忘れてしまいそうになる。その街並みを戦車が走り抜け、上空を戦闘機が飛び交う非日常的な光景が、この秋、北京の日常だった。親類に1人や2人は必ず軍人がいるこの国の人々にとって、軍隊は元々身近なもの。建国60周年の軍事パレード(と度々のリハーサルやそれにまつわる面倒な規制の数々)は、人民解放軍という名の中国共産党のアイデンティティーを、人々の目の前に、世界の鼻先に、あらためて突きつけた。
10月1日の式典に出席した国家指導者の序列や健康状態が巷(ちまた)のホットな話題となるのも、この国の人々の政治との独特な距離感ゆえである。小説部門のランキングでは、欧米の作家や東野圭吾などの翻訳物も常に顔を見せるが、フィクション、ノンフィクションを問わず、北京の人々が好むのは圧倒的に自国の政治物だ。発売と同時に驚異的な売れ行きを見せた話題の2冊は、その好例である。

『朱鎔基答記者問』は、断固たる態度で汚職・腐敗を追及し、経済改革を進め、「鉄血宰相」「経済皇帝」の異名をとった朱鎔基前首相が、在職中に国内外の記者の質問に答えた記者会見・講演などを収めた発言集だ。解説、分析などは一切付されず、98年3月から02年末までの発言の抜粋を、ほぼ時系列で紹介している。
9月2日に発売されるや、北京のみならず全国の書店で入荷するそばから売り切れ続出、たちまちベストセラーのトップに。初版25万部、発売当日に20万部の増刷が決定し、発売後10日間に全国から殺到した予約だけで75万部に達した。「学習」のために義務で購入する人々だけでは、これほどの数字にはならない。
現役時代の清廉、辣腕ぶりはもとより、03年3月の引退後ほとんど表舞台に姿を見せぬ引き際の潔さに、いまだ多くの庶民がその人柄を慕う朱前首相の衰えぬ人気ぶりが、あらためて証明された。ただ、このタイミングでの出版の理由は、わからない。他の指導者たちは、心穏やかではないのでは?と、余計な心配をしたくなるほどの朱鎔基人気再燃である。
本書には、訪日前に受けた日本メディアの取材や、東京で出演したテレビ番組の視聴者との対話など、日本がらみの内容も少なくない。日本人記者の質問に「あなたの中国語はとても上手だが、私にはよくわからなかった。通訳さん、もう一度中国語で言ってください」とおどけたり、人事に関する質問を「私はあなたほど情報通ではないから、どんな動きがあるのかまだ知らないのです」とかわしたり。歴代の指導者の中でも際立って表情豊かでウイットに富み、記者たちを唸(うな)らせ、魅了した前首相の力強い肉声を彷彿とさせる一冊。
国家指導者の「回顧録」や「文選」はこれまでにも刊行されているが、厳密な検閲を経た公式文書にすぎないその手の本には、読み物としての面白さはほとんど期待できない。本書は外国メディアとのやりとりが中心で、当時は中国の国内では未公開の内容であったことを差し引いても、当局お墨付きの国家指導者関連の出版物としては、格段に読み応えがある。
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