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もう一冊はベストテンの圏外だが、示唆に富む『 La sindrome di Arcore(アルコレ症候群)』。著者ジョヴァンニ・ヴァレンティーニは48年生まれで左派系メディアの著名な編集者・記者だ。書名の「アルコレ」とはミラノ近郊のベルルスコーニ邸がある自治体名。被害者が加害者に親近感を増してしまう「ストックホルム症候群」に引っかけ、類似の症状がイタリアを蝕んでいるというのが本書の基調である。アルコレ症候群はテレビ電波を通じて日々波及し、イタリア人の気分、不安や期待に影響を与え、幻想と幻滅を引き起こす。イタリアでは国民の過半数がテレビを唯一の情報源としており、テレビを見る時間に比例して彼への投票率が上昇するとの調査もあるほどだ。魔術のように思考・欲動を左右するテレビに、誰もが多かれ少なかれ無自覚のうちに犠牲となる。そこから逃れることは容易ではない。
本書では、ベルルスコーニが不正な政治資金と引き換えに放送局を築き上げる過程や、絶妙なタイミングで政界に打って出る背景も語られる。しかし、アルコレ症候群は、その前からすでに国民の間に進行しつつあったという。症候群の核にあるのは、極端な個人主義と快楽主義、極度な消費主義の集合体だ。これを、首相の名を取って「ベルルスコーニズム」と呼ぶ。政敵や彼に反発する者にまで感染し、価値
観を変えさせることで、メディアの帝王の虜囚であるテレビ依存市民は、ついに監禁者を慕うに至る。
若さと健康を誇示してやまないベルルスコーニが具現する楽観的な「新しい」政治家像は、体制的欺瞞に満ちた政治芝居や陰気な旧来型政治家たちに我慢できない市民を熱狂させる。同時に、挑発的でときに卑俗な言動は、社会制度の品位を重んじるものには耐え難い民主主義への挑戦と映る。もっとも、アルコレ症候群という檻のなかでは、彼に敵対するものも「小ベルルスコーニ」とならざるをえず、
反発すればするほど、ベルルスコーニを強化する結果になる。
結局、ベルルスコーニ人気の秘密を探っていくと集団的アイデンティティーの根源にたどり着く。長所・短所、徳・悪徳、特質も弱点もベルルスコーニとはすべてのイタリア人のことなのだ。高貴かつ卑劣、勤勉で怠けもの、正直だが不実という「国民的」矛盾はDNAのように生き続けている。

1.の書名を邦訳すると「私は神」(以下、冒頭は書名の邦訳)。ニューヨークを舞台にした推理小説で、ベトナム戦争で深く傷ついた米国を背景に連続殺人犯を追う女性探偵とフォトリポーターが主人公。最初の小説が400万部を超すなどこれまでの3作はみなベストセラーに。著者は映画俳優やサンレモ音楽祭に参加する歌手・作詞作曲家としても人気だ。
2.8.9.はスウェーデンのジャーナリスト(04年死亡)の推理小説3部作。欧州での人気は高い。
3.「幸運なんて存在しない」は大統領選の期間中、米国で36州を巡ったイタリア人記者が、市民の話に耳を傾けながら探る果敢な「七転び八起き」の真実。ミラノ警察署長だった父親は72年にテロで殺害されている。
4.「回廊の静寂」の著者は欧州では数少ない女性の推理小説作家。バルセロナを舞台に修道院での謎に包まれた殺人事件を解く刑事とその部下ガルソン。辛辣だがユーモアもある女性刑事が活躍する人気のシリーズ小説はテレビ映画化されている。
6.「ある即興人生」はノーベル文学賞受賞者ダリオ・フォの夫人である女優フランカ・ラーメの自叙伝。17世紀から続く人形芝居の家に生まれた両親は、各地の広場を巡回、演劇興行。幼いころから舞台に立ったラーメとフォの出会い。国営放送での番組検閲・辞任劇。アナキストの謎の死と告発演劇活動、右翼の恐喝とレイプ被害の体験から上院議員活動まで。政治家や教会権力の欺瞞的モラルを風刺する即興的笑劇はイタリア演劇界に強い影響を与えている。7.「2012年、世界の終焉か?」の著者は科学推理テレビ番組の司会者。マヤ暦によると2012年12月21日に現世が終息する。それは世界の終末か新たな時代の開幕なのか。著者が提示する驚くべき仮説とは……。
10.「神とその周辺についての談論」は知識人の対談。論議に新味はないとの評もあるが、人類の新たな共生の地平を開くため立場と観点を異にする者がともに史上最大の論題についての認識を喚起する。アウジャスは著名ジャーナリスト・作家・テレビ教養番組司会者。マンクーゾは神学者でミラノの大学教授。