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世界の書店から

[第10回]闘病中の俳優とヤンキース前監督の思い

宮家あゆみ Ayumi Miyake ニューヨーク在住ライター・翻訳者


 

有名人の書いた本がよく売れるのは、アメリカも日本と同じだ。俳優、コメディアン、スポーツ選手、ニュースキャスターなどの著作はベストセラーリストの常連で、しかも読み応えのあるものが多い。自分の意見をはっきりと言うことが美徳とされる米国の良さだろうか、思いや事実を率直かつ堂々と語る内容は、著者のファンであるかどうかに関係なく、人の心に訴えるものがある。今回も10冊中5冊が有名人の手によるものだ。日本でもよく知られる人物の本を2冊、紹介したい。

まず、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「ファミリータイズ」などの人気テレビドラマで知られるカナダ人俳優、マイケル・J・フォックスによる2冊目の自伝『Always Looking Up』だ。

 

91年に30歳の若さでパーキンソン病と診断されたフォックスは7年間、病気を隠して仕事を続けたが、98年に病気を公表。00年、人気テレビドラマシリーズ「スピン・シティ」への出演を最後に、俳優活動から退いた。最初の著作『ラッキーマン』(03年)は病との闘いに焦点を当てたが、本書ではパーキンソン病治療の研究助成を目的としてフォックスが設立した「マイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団」の活動を中心に、引退後から現在までの10年間の仕事や政治活動、信仰や家族について語っている。

フォックスは、パーキンソン病の治療には「ヒトES(胚性幹)細胞の研究が不可欠」とし、科学研究の規制緩和を訴え、幅広い政治活動を行う。ところが、キリスト教右派の意向を優先したブッシュ政権によってヒトES細胞研究に対する連邦政府の助成が大幅に制限されたことが指摘される(オバマ政権は制限撤廃を決定済み)。

同じパーキンソン病を患うモハメド・アリや、脊髄を損傷した故クリストファー・リーブらとの交流、テレビ出演したフォックスがパーキンソン病の症状を誇張しているとラジオ番組のパーソナリティーに中傷された際の対応など、さまざまなエピソードが披露される。少しずつ病状が悪化するなか、それでも彼は常に前向きで、家族と周囲への感謝を忘れない。ユーモアも健在だ。大学で細胞生物学を学んでいる長男が、父親のパーキンソン病を治すためにヒトES細胞の研究をするかもしれないと想像する知人に、「はげ頭を治してくれるとうれしいんだけどね」と軽口をたたく。「救いがたい楽天主義者の冒険」という副題は、自分を見つめ、希望を持ち続けるフォックスの人生に対する姿勢を象徴しているかのようだ。

(次ページへ続く)

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