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著者の窓辺

[第6回]イスラムの解釈を個人が再定義する

「宗教改革」は、すでに始まっている

『変わるイスラーム源流・進展・未来』 No god but God:The Origins,
Evolution, and Future of Islam

レザー・アスラン Reza Aslan 作家、宗教学者

 

――後半で、「イスラムの宗教改革は始まっている」と論を進めますね。
アスラン
 イスラムでは「ウラマー」と呼ばれる伝統的な宗教者がイスラムやコーランの解釈を独占してきました。しかし、19世紀末から20世紀初めに、西洋がイスラム世界を政治的、経済的に支配し、植民地化した時代に、宗教改革者たちが登場してきました。彼らはイスラムがひどい状況に陥ったのはウラマーの過ちだと唱え、イスラムとイスラム世界を刷新するためには、宗教者を排除して、古い教義や解釈を再解釈し、イスラムが現代世界に対応できるように再定義する必要があると訴えました。

「変わるイスラーム 源流・進展・未来」
レザー・アスラン著  白須英子 訳(藤原書店)
Reza Aslan, No god but God:
The Origins, Evolution, and Future of Islam
(Random House, 2005)

 

――アルカイダを率いるビンラディンもその流れの中にあるのですか。
アスラン
 そうです。ビンラディンは宗教者ではありませんが、「イスラムを解釈するのはウラマーではない。私であり、あなただ」とインターネットで若者に呼びかけます。
彼はイスラム共同体の義務だったジハード(聖戦)を「個人の義務である」と訴えます。それは暴力的で危険なものですが、革命的でもあるのです。宗教改革の動きは、伝統的な宗教界の外でイスラム解釈を個人に還元する試みなのです。

 

――エジプトでイスラムの復興を掲げた社会改革者、ハサン・アルバンナーが創設したエジプトの「ムスリム同胞団」をどう評価しますか。
アスラン
 これからの中東の民主化は同胞団が担うでしょう。同胞団は選挙に参加して民衆の支持を得ようとします。同胞団がイスラムの価値に基づいた社会の建設をめざすのは、米国の共和党保守派が、キリスト教の価値に基づいた社会建設を唱えるのと差はありません。彼らの主張に反対でも、政治目的を達成するのに暴力ではなく、民主主義を道具として使うことは尊重されるべきです。

だれもが独自のイスラム解釈を唱え始める

――あなたはイラン生まれですね。
アスラン
 79年のイラン革命の時は7歳でした。本の中でこんな記憶を書きました。
「ホメイニがイランに帰国した日、危ないから外出してはだめという母の警告を無視して、私は妹を連れ、テヘランの下町にあるアパートを出て、街頭で喜びに浮かれる人たちの群れに仲間入りした」。直後に私は両親に連れられて国を離れ、米国で育ちました。


――イランと米国の関係について、どのように見ていますか。
アスラン
 米国ではイランに民主主義があるなどという議論は全く出ません。しかし、イランは革命以来、中東で最も民主的な大統領選挙や議会選挙を実施してきました。ただし、私はイランの民主主義は失敗していると思っています。
制度は民主的なのに、イスラム聖職者が拒否権を持って支配しているのです。だから専制的な体制になっているのです。その上に、米国が断交したために、米国はイランの民主化を促進するような影響力を全く持てなくなっています。オバマ大統領がイランとの対話を始めようとするのは、米国の利益でもあるわけです。


――イスラムはこれからどのようになっていくのでしょうか。
アスラン
 シーア派のイランは事情が異なりますが、(イスラム世界の多数派の)スンニ派では、宗教改革が進行中です。宗教者の独占が崩れて、誰もが独自のイスラム解釈を始めています。民主主義を唱える者、暴力を唱える者、専制を唱える者、フェミニズムを唱える者など、どのような解釈も可能です。その先にあるのは「民主的なムスリム同胞団か、過激なアルカイダか」というような、どの流れが主流になるのかという問題ではなく、宗教が分裂し、いくつもの小さな運動に分岐するということです。そのようなプ
ロセスはすでに始まっているのです。

(聞き手 編集委員 川上泰徳)

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