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新大久保駅事故から20年 最悪の日韓関係、「亡くなった韓国人に合わせる顔ない」の声

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
事故が起きたJR新大久保駅のホームへの階段に設置された顕彰碑=朝日新聞社撮影

――事故から20年が経ちました。

恥ずかしい気持ちになるばかりだ。李秀賢さんの殺身成仁(身を捨てて仁をなす行為)によって生まれた両国民間のお互いを思いやる心を育てられず、現在のような最悪の韓日関係を作り上げてしまった。本当に李さんに合わせる顔がない。

――なぜ悪化してしまったのでしょうか。

最も重い責任は、両国関係発展のための意思と能力が不足していた両政府と政治指導者にある。韓日両国は不幸な過去を背負っているため、常に肯定的な出来事と一緒に否定的な問題も生み出してしまう。両国関係の発展のためには、否定的な面を極小化し、肯定的な面を極大化することが当然の仕事なのだが、現実に起きたことはいつも正反対のことばかりだった。

JR新大久保駅の事故現場を訪れた李秀賢さんの父盛大さん(右端)と母辛閠賛さん=2001年1月29日、朝日新聞社撮影

――日本には「何度謝っても、韓国は約束を破る」という声もあります。

日本の立場では、そう考えるのかもしれない。ただ、「日本の謝罪には真心がこもっていない」という韓国の主張にも一理があることを理解して欲しい。日本側がせっかく謝罪しても、すぐに政府高官が正反対の言動に出る場合が多いからだ。この悪循環を断ち切らなければいけない。

日本が真心のこもった謝罪をし、韓国も大抵の日本側の言動には大騒ぎしない、心の広い決断が必要だと思う。

――中国が地域内で影響力を拡大していることが、韓国の行動に変化を与えているのでしょうか。

韓国の対日関係において、中国が与える影響力は大きくない。韓国は、日本と中国のどちらを選ぶかという選択には迫られていない。韓中日3カ国協力において韓国が最も積極的だという事実にも意味がある。

日本の方たちは「なぜ、韓国は同じ価値観を持つ日本を脇に置いて、中国と接近するのか」という疑問を持つのだろうが、これは価値観とは関係がない。韓国は日本とも中国とも、良い関係を維持していけると考えている。

李俊揆元駐日大使=朝日新聞社撮影

――韓国が主要20カ国・地域(G20)になったことと、日韓関係の悪化は関係がありますか。

韓国の国際的な地位が上がったことで、国家的なプライドも高まったのは事実だ。だが、日本の方たちが持つ疑念のように「韓国の地位が上がったことで強く出てきている」ということではない。韓日関係は、そのような論理では説明がつかないほど特殊な関係だということだ。

――1月8日には、日本政府に元慰安婦らへの損害賠償を命じる韓国地裁判決がありました。韓国内の雰囲気を教えて下さい。

慰安婦問題で日本政府の法的責任を認めた裁判所の判決に拍手する人もいるが、非常に難しい韓日関係に、更に克服が難しい障害物が生じたことを心配する人も多い。

韓国政府も、バイデン米政権が発足し、韓日関係の改善が必要だということを十分認識している。国民世論も相当、その考えに納得している。今はむしろ、韓日両国の指導者が決断することで、韓日関係を画期的に改善できる機会なのかもしれない。

――文在寅大統領は18日の記者会見で、慰安婦や徴用工判決に伴う強制執行を望まない考えを示しました。

大統領の発言はこれまでの韓国政府の態度に比べて、画期的だと言える。大統領はこうした考えを菅義偉首相に直接伝え、真心を示す必要がある。菅首相も韓国が行動で示す時まで待つのではなく、文大統領と対話して大きな枠組みで共感を広げる努力をする必要がある。両首脳が合意の枠と精神で一致さえすれば、両政府の実務者が具体的な方法について協議することになるだろう。

――悪化する日韓関係のなかでも、若い世代の交流は活発になっています。

両国の若い世代がお互いの文化に対する理解の幅を広げていることは、両国関係の将来のために大変望ましい。韓国には「遠い親戚よりも近所の人」ということわざもある。お互いの文化交流を通じて親しくなれば、韓日両国が真心のこもった隣人になれる。

――私たちは李秀賢さんの事故20周年にあたり、何をすべきでしょうか。

20年前、我が身を捨てて隣人への愛を実践した李秀賢さんの崇高な心を継承し、お互いの憎悪やねたみを捨て、信頼と愛情を基礎にした真心のこもった隣人として生まれ変わるために、努力しなければならない。我々全てが李さんの前で恥ずかしい思いをしないようにならなければいけないと思う。

私は1998年10月、金大中大統領と小渕恵三首相の共同宣言の場に、韓国大使館の参事官として立ち会った。共同宣言に署名する両首脳の姿を忘れられない。一日も早く、韓日両国が共同宣言の精神に立ち返って、親しい隣人として、未来に向かって手を携える日が来て欲しい。