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アボカドはどこへ

How the Avocado Became the Fruit of Global Trade ニューヨークタイムズマガジンから


メキシコ・ミチョアカン州。火山が連なるそのふもとでは、ある闇市場の独占をめぐる争いが起きている。麻薬カルテル「ラ・ファミリア・ミチョアカナ」は10年前、敵5人の頭部をダンスフロアに放り投げることで存在感を示そうとし、別のカルテル「テンプル騎士団」は騎士道精神に基づく行動規範とやらをまくしたてながら、農家から金品をゆすり取り、人を誘拐し、土地を奪った。


ミチョアカンの経済を動かし、米国人をとりこにしているものの正体は、マリフアナではなくアボカドだ。メキシコの生産量は世界の3分の1にあたり、地元住民は「緑の黄金」と呼ぶ。メキシコ史上最も暴力的とされた2017年、カルテルがはびこる同州から80万トン近いアボカドが米国に輸出されたのは、現代の奇跡だろう。米国に輸入されるアボカドの10個中9個は、ミチョアカン産なのである。


9000年近くアボカドを育てていながらも、メキシコは1980年代までほぼどこにも、まして米国へは全く輸出してこなかった。米国は14年以来、害虫の侵入と価格競争を恐れてメキシコ産アボカドの輸入を禁じていたが、94年のメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)締結後、やっと輸入を解禁した。


そしてその後のアボカド一大旋風がある。輸入開始当初は一人当たり500グラムほどだった米国人の年間消費量は、いまや3キロだ。ラテン系コミュニティーの拡大と、ハリウッドスターたちが健康効果をうたったことで火がついたアボカドへの熱狂は、毎年強まる一方だ。スーパーボウル開催週ともなると、6万トンのアボカドが消費される。「ここまでのブームには皆驚いている」。ミチョアカンで世界最大のアボカド卸売業「ミッション・プロデュース」を営むスティーブ・バーナードは言う。「我々は急いで動いている。年10〜15パーセントで成長しているのに、需要に追いつかない」


NAFTAを「史上最悪の貿易協定」と非難するトランプ大統領は、自動車や繊維など製造業の雇用喪失を重視するあまり、NAFTAによる大きな恩恵を見逃している。加盟3カ国で、農産物取引と消費者満足度がともに大きく向上しているのだ。メキシコ産アボカドが米国での品薄期間を補うことで、米国人の食生活も変わった。アボカドの供給網は1万9000人分の雇用を生み出し、GNPを22億ドル増やしたという研究結果もある。


「アボカドはNAFTAの輝ける星です」。中南米諸国の貿易の専門家モニカ・ガンレーは言う。トウモロコシや大豆、乳製品など米国からメキシコへの農産物輸出額もほぼ5倍の180億ドルにのびていることに触れ、「メキシコがいかに米国に依存しているかばかり強調されがちですが、NAFTAがなくなって失うものが多いのは米国の生産者かもしれない」。


アボカド農家は他の成長しつつある市場への取り組みを強めている。特に可能性に満ちているのは中国だ。中国ではアボカドは10年前まで実質知られていなかったものの、10年は2トンだった輸入量が17年には3万2000トンまで飛躍。きっかけはケンタッキーフライドチキンの「アボカドラップ」で、アボカド色のヒゲをはやした人気歌手による宣伝が、アボカドのイメージアップになった。


昨年まで中国にとって最大の輸入元だったメキシコも今やチリに追い抜かれ、ゆくゆくは中国産との競争になるかもしれない。すでに広西チワン族自治区南部では複数のアボカド農園が開発されてもいる。ここでラテンアメリカ並みの多品種を低コストで作れたら、世界の市場は転換を迎えるだろう。


現時点では十分な知識もなく、熟す前のアボカドばかりが店に並んでいる。この問題を解決すべく、バーナードの「ミッション・プロデュース」は昨年、中国では初めて「完熟センター」を上海に設立。19年には深圳市にもできる予定だ。そしてバーナードの夢はふくらむ。「この国の麺料理全てにアボカドを4切れずつのせていくと、世界中でアボカドが不足する」。でもメキシコならなんとかできる。もしも米国が貿易戦争へと傾いたら、ミチョアカンの農家は代わりに中国へと、「緑の黄金」を届けるだろう。


(ブルック・ラーマー、抄訳 菴原みなと)

©2018 The New York Times


Brook Larmer

バンコク在住のライター。「ニューズウィーク」誌のブエノスアイレス、マイアミ、香港、上海各支局長を歴任。

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