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[第9回]ビュイック




父が「ビュイック ルセイバー」を自宅に乗り入れるとき、いつも誇らしげだった。シャンパンカラーの美しい車だった。内装はなめらかなベロア、ドアはソフトビニール、ウォールナット調のダッシュボードには家庭を思わせるぬくもりが宿って。


あれは1984年、僕はまだ14歳で、自分でドライブに出かけるには若すぎた。父はエンジンをかけたままの運転席に僕を座らせてくれ、ヨハン・シュトラウスと書かれたカセットテープをプレーヤーにセットし、たばこに火をつけた。シンシナティの街が夕闇に包まれ始めると、父と僕は「ウィーンの森」に身を沈めた─子どもでいることのはかない安心感を思い出させてくれるこのころを、今もよく振り返る。


「安心」が売り文句のビュイックだったが、父が購入したときのアメリカのセダン界における立ち位置は不安定なもので、シボレー以上キャデラック以下という感じだった。数年後、「動くソファ」的居心地の良さや、オーシャン・ライナー(大型旅客船)を思わせる流麗さは、セールスポイントというよりはジョークになっていった。ビュイックドライバーの平均年齢とされる65歳(最近59歳に下がったと読んだが)以下の世代にとっては特にそうだっただろう。


90年に父が亡くなり、母はまたもビュイック乗りで、パークアベニュー(ビュイックのモデルの一つ)を偏愛するテッドという男と再婚した。20代から30代の頃、二人の住むフロリダを訪ねては、角張った愛車「フォルクスワーゲン ジェッタ」をしばし休ませ、テッドが許してくれる限り彼のビュイックを拝借した。つやつやした革の運転席に腰を下ろすと、全身がくつろいだ感覚に包まれた。ジェッタがエコノミーなら、ファーストクラス仕様だ。



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