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NYT Magazineから

[第5回]人生がときめく小さな空間


私の母の性格をひと言で表すなら、独創的、あるいは衝動的だ。おかげで、びっくりするような家にばかり住んできた。沼地のバンガロー、見かけはピカピカだけど暖房のないアパート、築100年を超えるがれき除去のための作業員小屋……。


共通するのは、その狭さだ。10歳から11歳まで住んでいたサンフランシスコの家では、押し入れにマットレスを敷いて寝ていた。兄も体が収まらなくなるまではそこで寝ていたから、壁は蚊を仕留めた跡の茶色い点々だらけだった。


押し入れ生活に慣れる間もなく、今度は1時間ほど北に引っ越した。次に割りふられたのは、物置同然の離れだった。家族が住む1LDKの家から12メートル離れている物置は、4畳半の天国だった。ドアには鍵がついてるし、床に寝そべっても手も足も壁に当たらない。


ベッドと棚に加え、母は「何かあったときのために」と、懐中電灯とピーナツバターの大瓶を置いてくれた。例えば何者かが夜中に押し入り、サンドイッチを作らされてもいいように。カリフォルニア州の住宅法に違反していたことは間違いないが、ここを引っ越すときは、めちゃくちゃ悲しかった。



MUJIの戦略


世の中には小さな空間を上手に使える人というのがいて、私もその一人だ。


小柄で細身だから、小さな住まいにひかれるのだろう。牧場主の屋敷では自分が薄っぺらに感じるし、きゃしゃなビクトリア様式の建物ではコルセットをきつく締められたような感覚に襲われる。550平方メートル以上の家に入る時にはまず「叫んでも誰も助けてくれない」と思ってしまう。


私が言う小さな空間とは、シリコンバレーの大金持ちが住むような写真うつりのいい家のことではない。「穴蔵にひかれる」という普遍的な人間の本能について語っているのだ。「ほとんどの子どもが経験する遊びがある。家具の下にもぐり込んだり、即席の小屋を作ったりして『僕の家だ』と叫ぶ遊びだ」と、英国の建築歴史家ジョン・サマーソンも書いている。


限られた空間にいろいろなモノを詰め込みたくなる人間の欲望も、この類いだ。だから荷造りは楽しく、荷解きはつまらないのだろう。道具箱や釣り道具入れ、Apple製品のパッケージ、弁当箱、船の客室、コンドウ・マリエ(『人生がときめく片づけの魔法』の著者・近藤麻理恵)やMUJIの戦略も、これで説明がつく。

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